第26話 呪縛
静代は無表情にそれを聞いている。九龍頭はまっすぐに静代を見ながら言った。
「ただ、分からないことがあります。それは動機なんです。何故、あなたは……」
「何故? 全ての呪縛を解き放つ為よ。そこにいる浅香夫妻、天羽太一郎、従業員、全てを殺害するつもりだったわ」
全員がさっと静代から身を引いた。
「あの野薔薇荘事件は、全ての人間の人生を狂わせた。まずあの人、大滝哲次朗。彼は百合根一族の犠牲者をこの庭に処理していた。唯一解放されたのは、大滝だったのかも」
「……」
「この庭に薔薇が全く無くなっている理由は一つ。この庭には大量の人骨が埋まっているからよ。あの一族に命を奪われた哀れな人骨が」
「なるほどね、その人達の菩提を弔う為に、あなたは野薔薇荘ごとこの世から消し去ろうと、全てを葬り去ると?」
「そうよ」
「あなたがやっている事と、百合根三郎達がやった事、一体何が違いますか?もとい、あの野薔薇荘事件の犯人はあなたなんですよ?筋違いも甚だしい!」
「違う!」
「理由はどうあれ、殺人は裁かれないといけない。あなたは卑劣だ、殺人を正当化する事は決してあってはならないんだ」
井筒警部が桐生静代に手錠をかけようとしたその時、彼女は懐に入れていた針で自らをちくりと刺した。
「あっ、いけない!」
桐生静代は苦しみはじめた。針にはニコチンが塗られていたようだ。そのまま彼女は動かなくなった。長い呪縛から解き放たれたように。
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