終幕

 井筒警部と九龍頭は天羽の車の中にいた。重苦しい空気が流れ、各自は一言も口を開くことはなかった。

 天羽は九龍頭をバックミラーごしに見ると、ぼそりと呟くように言った。


「これで、全て終わったんですね」


「いや、長かったでしょう。僕にはどうしても煮え切らない事があるんですがね……」


 井筒警部は後ろを振り向き、九龍頭に言った。


「しかし、もう野薔薇荘は解放された。あの事件の呪いからね」


「彼女には、全てを公にしてほしかった……でもまぁ、これも時間が全てを洗い流してくれるはずです。だって……」


「事件は終わったんですもんね」


 天羽は言うと、前に向き直った。


「しかし、もうこんな事件は懲り懲りですよ。二束三文にもならなくても、探偵小説を書いているほうが余程いい」


「結構ですな先生。私としてはそうもいきませんがね?また先生の助力を借りる気がします」


「も、もう勘弁してくださいよ!」


 白鷺高原の厚い雲間から薄く光が射している。まだ泥濘がとれない道を走る天羽の車を照らしながら。

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野薔薇荘の惨劇 回転饅頭 @kaiten-buns

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