第9話 続・嵐の中で
〈夕食後、柘榴石の間〉
桐生信行は些か酔ってしまったようだ。酒は好きなくせに強くはない。焼酎など飲むと顔を真っ赤にしてしまう。まさにこの柘榴石の間のように……
それにしても、なんて暑苦しい部屋なのだろう。この屋敷を設計した人間の気が知れない。そう桐生静代は思っていた。
「いやいや、この屋敷は素晴らしいねぇ」
桐生はそう言いながら軽薄そうな笑いを浮かべている。劇作家の桐生の琴線に触れる何かがあったのだろう。
「嵐の中、かつて惨劇が起きた屋敷に幽閉された客人。そして起こる連続殺人事件なんて、劇にしたら最高じゃないか?」
部屋を照らす雷光。光すら真っ赤に光る部屋でけらけらと桐生は笑っていた。
〈夕食後、水晶の間〉
薄く灰色に染まった部屋で飯島美晴は本日3本目になるペルメルに火を点けた。
殴り書きのようなノートを開くと、ゆっくり煙を胸に吸い込んで頭を巡らせる。なるほど、この屋敷に泊まっている客人は決してただの客というわけではないらしい。それが美晴が導き出した結論だ。
しかしながら、やはりあの探偵小説家という男。九龍頭光太郎は油断ならない相手のようだ。しかも明晰であろう頭脳を一切見せない所が曲者だ。
美晴はノートの末尾のページを捲った。そこには【百合根一族の呪わしき末路】と記されていた。
〈夕食後、真珠の間〉
全くの下戸である九龍頭光太郎にとって、美味そうに赤ワインを口にする井筒や桐生の気持ちがいまいちよくわからない。酒を口にするのなら、濃い珈琲を食後に飲むほうが九龍頭には余程わかる。
窓の外に目を向けた九龍頭。やはり嵐は暫く過ぎ去る気配を見せない。木々は折れんばかりにゆさゆさと突風に揺さぶられている。
あの野薔薇荘の事件の考察をしようと、あんちょこ書きのような手帖を開き、鉛筆を取り出す。鉛筆の先は丸まっている。研ぐ必要がありそうだ。九龍頭は鞄から愛用の小刀を取り出す。昔から鉛筆は小刀で削っている。
「おや?」
窓の外にぼやけた薄明かりが見えた。その灯りは真っ赤に見える。まるで血のように紅い……九龍頭はぶるりと身震いをした。
探偵小説という
彼の部屋の扉が来訪者により叩かれたのは、それから程なくしてからのことであった。
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