第3話 誘い
しかしながら、避暑地と言うだけある。空気が都会とは質が違う。鳥の囀る声さえ澄んで聞こえる。
玄関の扉が開かれた。そこには一昔前の執事のような小柄な男が背筋に一本棒を入れているかのようにしゃなりしゃなりと歩いて出てきた。
「お客様で御座いますね?」
天羽は腕時計を見せた。彼は予約をしていたようだ。
そう、この野薔薇荘は今は人里離れた場所に建ったお屋敷をホテルに改築した建物である。なのでここには従業員がいる。この執事のような男は従業員なのだ。
「支配人の、
九龍頭は蒲生に頭を下げた。恐縮そうにすいませんと告げると、そのまま話を続けた。
「あの、私東京で物書きをしております。九龍頭と申します。予約はしていないんですが、お部屋は?」
「おぉ、左様でありましたか。空いて御座いますよ?」
助かったぁと甲高い声をあげると、九龍頭は若干後ろに仰け反った。
「御夫婦が二組と、女性がお一人、男性がお二人に、九龍頭様です」
この舘に、計8人の客に従業員がいるようだ。もちろん皆この悪路をえっちらおっちら歩いてきたのだろう。車が通れるような舗装された道などないのだから。
「あの……ちょっと訊きにくいことなのですが……」
「はい」
蒲生が九龍頭の顔を見て答えた。小柄ではあるが、よく見ると顔がでかい。ブルドッグのような愛嬌のある顔をしている。
「蒲生さんは、ここは長いんですか?」
「もうかれこれ10年になります」
「って……事は」
「ええ、存じておりますよ。あの事件のことは」
ざわざわと木々が揺れた。まるで何か不吉な物を運んでくるかのように
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