野薔薇荘の惨劇
回転饅頭
序章
関東地方には、今夜未明から大型で非常に強い勢力の台風が北上し、猛威を振るっているようであり、びゅうびゅうと吹き荒れる風が木々を揺りかごのように揺らし、バケツをひっくり返すような雨が頭上から降り注いでいる。
舗装すらされていない道は泥濘み、タイヤはその小さな沼と化した道に沈んでは浮き上がりを繰り返す。
警視庁捜査一課の今里警部以下数人の捜査官が、
その洋館は、人呼んで【
まるでグリム童話にでも迷い込んだかのような様の洋館である。壁には伸び放題に伸ばしたかのような野薔薇の蔓が館を護るかのようにびっしりと張られている。
月さえ見えない嵐の夜に、不気味さすら感じざるを得ないその館の扉に、今里警部は手をかけた。
厭な予感がする。
齢既に50を幾らか越えた警部の経験上、こんなにも厭な予感を感じたのは、初めてである。部下の警官は尚更に違いない。
扉を開くと、吹き抜けになった二階の廊下に、一人の老齢の燕尾服の執事風の男がマネキン人形のように立っているのが見える。
「警視庁の、今里です。連絡をしたのはおたくか?」
腰を折って頭を下げた男は、よく通るバリトンの声で言った。
「はい、そちらの大広間です。どうか、お気を確かになさって御覧下さいませ」
その燕尾服の男の声からは一切の感情が読み取れない。何か電気式の人形が喋っているかのような感じさえ受ける。
今里が顎をしゃくると、警官が大広間に向けて歩き出す。警官が扉の向こうに消えたすぐ後、露骨な嗚咽が聞こえた。
「何を……」
「刑事さん、貴男も目を懲らして御覧下さいませ。そこにいるのは許されざる
今里は燕尾服の男に訊いた。
「なぜ、あんたがそれを……」
「私があの一族を葬ったからで御座います」
一瞬、燕尾服の男が微かに笑ったように見えた。服には一切の乱れは見られない。それなのに……
「信じられないでしょう。こちらの私の部屋に全て御座います。この凶行に用いた凶器一式がね」
今里警部は男に指を向けると、大広間に向けて歩き出した。燕尾服の男はそこに貼り付いたかのように微動だにしない。逃げるつもりはないのだろう。
今里警部が重い扉を開いた。
濃密な死の匂いが警部を包みこみ
網膜には地獄に似た風景が映った。
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