第15話 平和な決意
「……平和だ」
そうぼやいているのは日頃から人を守りたいと訓練しているグリズリーだ。
どうやら最近になってジャパリパークが呆れるくらい平和な土地と言うことを理解したみたい。
まぁ、基本的にここにいるのはジャパリパークの関係者だけだし、そうそう問題なんて起こらないよね。
「はぁ……」
岩を軽く投げ飛ばせるような力を持っていたとしても、人の世で大して役に立ちそうにないと言うことを実感したグリズリーはちょっとだけブルーな気持ち。
と、そんな時だった。
グリズリーの目の前を幾人かの飼育員が目の前を横切る。
もしや何かが起きちゃった?
「おい、何かあったのか?」
グリズリーは最後尾を走っている飼育員の一人に何があったかと問い掛ける。
飼育員はかなり走り回ったのか肩でぜぇぜぇと息をしながらグリズリーに何が起きたかを説明した。
「ヒグマが……逃げ出した……ぜぇ……ヤバい」
ファウ!?
ヒグマが逃げ出したですって!!
猛獣を居住区に解き放ったおバカは何処のどいつだ!!
「いよいよワタシの出番と言うわけだな!」
喜ぶな!
飼育員達と共に逃げ出したヒグマを追跡する。
辿り着いた場所には元気に暴れまわるヒグマの姿が!!
ヒグマは飼育員達の前に飛び出して、飼育員達を庇うように熊手のような武器を何処からともなく取り出した。
「待て!ヒトに手を出すならワタシが相手を……」
アニマルガールのグリズリーを前にしてヒグマが威嚇をするように立ち上がる。
「……」
しかし、その体長は50センチにも満たない。
そして、コテンと可愛く後ろへ倒れたのを見てグリズリーは呆然としている。
「子供……」
グリズリーはやっと自分の力が役に立ちそうと思っていたのに、現れたヒグマはただの子供だったのだ。
グリズリーはヒグマの子をひょいと持ち上げて、何とも言えない表情でその円らな瞳を見詰める。
「オマエ、あんまり遠くに行くと母親が心配するぞ」
子熊の分かっていなさそうな表情を見てグリズリーはため息を吐く。
その後、グリズリーは飼育員達と共にヒグマの子供がいる飼育場までやってきた。
「ん?」
だけど、ヒグマの子供がいた筈の檻の中には当然一緒にいる筈の母親の姿が見当たらなかった。
「この子の母親はどうした?」
「……この子には母親がいないんだ。いや、死んでる訳ではないけど……」
「そう……なのか」
野生の世界の中でも極稀に子供との接し方が分からなくて、育児放棄をしちゃう母親もいる。
この子の場合は母親の育児放棄を切っ掛けに保護されてジャパリパークにやってきた子供だった。
たぶん、人間に育てられることになるから、半分野生の世界であるサファリに放す事は出来ないと思う。
グリズリーは檻の中で一人ぼっちのヒグマを見て、意を決したように宣言した。
「決めた。ワタシがこの子を育てる」
「え?」
本来なら私達にお世話をされる立場であるアニマルガールのグリズリーから突然の申し出に飼育員は困惑する。
「この子はヒグマだろう?しーくいんさんからワタシはヒグマとは親戚関係のようなものだと教わった。なら、家族のようなものだ。それに……」
グリズリーは飼育員の方へ振り替えって、飼育員に向かって微笑む。
「ワタシもクマだ。もしかしたら、並の飼育員よりも役に立つかもしれないぞ」
「……分かった。上司に君が飼育員として働けるように掛け合ってみよう」
そして、飼育員をやるアニマルガールと言う奇妙な存在が生まれてた。
一番始めに言っていた人を守りたい気持ちは変わらないけど、グリズリーは他にもやりたいことが出来たみたい。
今は先輩飼育員達からも動物の世話の仕方を教わっているようで、世話をされるのと世話するのは大違いだったって言ってた。
何はともあれグリズリーの悩みが解決したみたい。
そして、ある日のこと……
私は相も変わらず多忙な日々を過ごしている中で、グリズリーの様子を見に来た私は別の意味で驚愕することになった。
「グリズリー姉さん!」
そこにはかつて子熊だったヒグマにグリズリーが姉さんと呼ばれている姿があった。
て言うかアニマルガールになってるし!!
一緒に飼育員の仕事してるし!!
「しーくいんさんじゃないか。どうした?」
「グリズリーの様子を見に……てか、その子ってもしかしなくてもあの子だよね?」
「そうだ」
そうなのねー
「ワタシはヒグマ。サイキョーを目指してグリズリー姉さんの元で修行をさせて貰っているんだ」
「平和なジャパリパークでサイキョー目指してどうすんの……」
こうして、動物の世話をする飼育員のクマのコンビは何時しかジャパリパークの名物の一つになるのだった。
たぶんね!
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