第25話 クリスマスがやってくる

 ふと、夜中に目が覚めると身体が動かなかった。


 もしや金縛り!?

 って訳もなくガッチリと背後から身体をピューマに抱き締められていたからである。


 最近寒いから温もりを求めて私のベッドに侵入してきたみたい。

 私は湯タンポ代わりか!!


 まぁ、でも最近寒いもんねぇ。

 12月も半ばくらいだし……


 アニマルガールが出て来てから3ヶ月ちょっと過ぎたかな。

 長かったような短かったような……


 そろそろクリスマスもあるし……何かプレゼント……


 そして、いつの間にか眠りに落ちて再び私は目を覚ます。


「と、言う訳でこれから季節のイベントを積極的にやりまーす!」


 起きて早々に私は寮のみんなをリビングに集合させて、これからの事を話す。

 朝の寒さに身を寄せあっているインパラとダチョウ、毛布を身体に巻き付けたカワラバト、半分寝ているグリズリー、そして私にべったり貼り付くピューマ。


 グリズリーは最近朝早く起きれなくなってきている。

 普通のクマは冬眠する時期だからね。

 研究員の話ではアニマルガールになった後も冬眠することが出来るらしいけど、グリズリーは頑張って起きてるつもりみたい。


 まぁ、元の動物のグリズリーは他のクマと比べて、冬眠の時期でもたまに起きてフラフラと散歩するから、朝起きれない程度で収まってるのかもね。


 他のクマのアニマルガールだとがっつり寝ちゃうのかも。


「しーくいんさん、季節のイベントって何かしら?」

「ピューマ、ヒトの社会では周期的に色んな行事をするんだよ。10月は色々あってハロウィン逃しちゃったから、12月はしっかりとクリスマスをやるよ。クリスマス分かる子!」


 そう聞くとピューマが手を小さく上げた。


「しーくいんさん、わたし知ってるわよ。クリスマスって、一年の中で一番ヒトの番が夜中にこう「アウトォオオオオオ!!やめろやめろやめろぃ!!そんな生々しい表現を使っちゃいけません!!せめて、カップルがイチャイチャするくらいにしろぃ!!」


 いきなり爆弾発言はやめてくれぃ!!

 ピューマさんは寝ぼけてらっしゃるの!?


 私の絶叫を聞いて完全覚醒したのかグリズリーがそんな私とピューマを見てダチョウに耳打ちをする。


「そろそろヤバいと思うんだが、放って置いて大丈夫だろうか?」

「私の見立てではまだ大丈夫ですよ」

「でも、遂にアレを口走り始めたぞ。本当にヤバくないのか?」

「え?ヤバいとかヤバくないとか何の話?」


 インパラはグリズリーとダチョウの会話で何を話してるのか分からず困惑している。

 て言うか私もわからん。


「……後で教える」


 グリズリーは詳細をここで話すつもりはないみたい。

 私とピューマのどっちの何がヤバいかすっごい気になるんだけど……

 ま、まぁいいや。


「クリスマスと言えば、綺麗なイルミネーション飾ったり、クリスマスのご馳走を食べたりとか色んな楽しいことが目白押し!」

「イルミネーションって、この前テレビでやってたキラキラした奴よね?わたしもしーくいんさんと一緒に行きたい」

「今は無理だけどね。その内行けるようになる筈だからその時はジャパリパークを飛び出して日本観光に行こう!」


 年単位の時間は掛かりそうだけど、世間にアニマルガールの存在を認めさせちゃえば大丈夫な筈!

 世間に公表するタイミングは上の人が考えてくれるでしょ。


「あと、イルミネーションならパーク・セントラルでイブとクリスマスに試運転するからみんなで見に行こっか」


 そんな感じでクリスマスの計画を立てている時に毛布にくるまっていたカワラバトが思いもよらぬ事を言い出した。


「しーくいんさん、サンタさんは?」

「サンタ……さん?」

「サンタさん、ウチにプレゼント持ってきてくれるかな?」


 もしかして、今だにサンタさんを信じてる……?

 って今だにでも何でもないじゃん!!

 カワラバトって生後一歳行ってるかどうかってところだし、信じててもおかしくはないし!!


「サンタさんかぁ。よし!あたしは夜更かししてサンタさんを捕まえてみるよ!」

「インパラ、バイト先の人が言ってたのん。夜更かしする悪い子にはプレゼントを持ってこないって」

「ええ!マジ!?」


 インパラとカワラバトのサンタさん談義に疑問を抱いたのか、グリズリーが話に割って入る。


「そもそも、そんな都合の良い存在がいるのか?まぁ、ワタシもそれなりに話を聞いているが空飛ぶソリに乗って来るというのがイマイチ信じられないんだが……」

「グリズリー、サンタさんの科学力は半端ないのん!飛行機みたいなでっかい鉄の塊だって空を飛べるんだから、ソリくらい飛んでもおかしくはない!」


 そこは魔法じゃないんだ……

 カワラバトの力説にグリズリーが言われてみればと納得しかけてしまう。


「しーくいんさん、本当にサンタさんはいるのだろうか?」

「え゛!?」


 わ、私に話を振っちゃうの!?


 私は部屋にいるアニマルガール達の瞳をみる。

 穢れを知らない無垢なるピュアっピュアな視線が私のダーティな心を貫く。


 負けるな私のダーティハート!

 この子達に残酷な世の真実を伝えねばならん!

 言え!

 言うんだ私!

 サンタさんは存在しないとぉおおおおおお!!!


「いるよ!!サンタさんいるよ!!」


 負けました。


 たぶん、カワラバトがあまりにも素直にサンタさんの話を信じちゃったもんだから、今更後に引けなくなっちゃったんだろうなぁ。


 かく言う私も今の嘘で後に引けなくなっちゃったよ……

 何とかしてカワラバト達のプレゼントの希望を聞き出さないと。


 ……世のお父さん達の気持ちが少しだけ分かったような気がした。

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