第30話 襲来せし者

「邪魔しに来ましたー!」

「邪魔をするなら帰って欲しいのです」


 お土産片手にカコさんの研究室に入るなりコノハちゃんから帰れと言われるけど、そんなの無視して入っちゃいまーす!!

 本気じゃなくて軽い冗談みたいなものだからコノハちゃんも本を読んだままである。


「去年振り~元気してた~?」


 私はずっと本を読んでるコノハちゃんの頭に手を置いて撫で繰り回す。


「気安く頭を撫でるんじゃないのです!整えた髪が乱れるのです!それにしーくいんとは先週も会ったばかりなのです!」

「ところでカコさんは?」

「……すぐに帰ってくるですよ」


 撫でるのをやめて暇潰しに私はコノハちゃんの後ろに回って何の本を読んでるか覗き込む。


「うっ」


 ぜ、全部英語で書いてある……


「こ、コノハちゃん、それ読めるの?」

「読めるですよ。文法は頭の中に入っているので」


 もう既に遥か高みに行っちゃったのね……


「そう言えば、しーくいんに一つ質問があったのです」

「なになに?」

「しーくいんがお世話をしてるのはアニマルガールだけなのですか?例えば、パークの職員とか……」

「パークの職員は必要ないっしょ!職員の健康管理は自己管理!」

「そうなのですか……」


 コノハちゃんはちらりと棚を見たので、視線の先を見てみるとそこにはカップ麺が置いてあった。


「コノハちゃん、食べるなとは言わないけど、アレを主食にしちゃダメだからね」


 お腹は満たされるかもしれないけど、栄養の偏りが半端ないから本音言うならアニマルガール達に食べさせたくない。


「安心するのです。あんなもの食べる気も起きないのですよ」


 ならいいや。


 しばらく待っているとカコさんが帰って来た。


「あ、あれ?ど、どうしてイツキさんが、い、いるんですか?」

「邪魔しにきましたー!」

「本当に邪魔しに来たのですか!?」


 始めからそう言ってたじゃん!


「あ、そうだ。ついでなんですけど、冬眠中のアニマルガールの途中経過のデータ見ますか?」


 そう言って私はついでに持ってきた書類をカコさんに渡す。

 コノハちゃんがそれが本命じゃないのか的な顔で見てくる。


 本命じゃないよ?


「グリズリーのデータなんですけど、体温の推移を見る限りだと動物だった頃とほぼ同じっぽいですね」

「人体の構造上自発的な冬眠は無理の筈ですが、けものプラズムに寄って動物の頃と同じ生理現象が起きているのかもしれません。もう少し精細なデータが欲しいところですが……」

「じゃあ、検査しちゃいます?」

「そうですね。グリズリーさんのお部屋で出来る範囲の検査を行いましょう」


 カコさんとグリズリーの検査の日程を決める為の打ち合わせついでに私は本命のお邪魔アイテムを取り出す。


「じゃーん!手作りおせちでーす!」

「良くやったのです!早く食べさせろなのです!」


 真っ先に食い付いて来たのはコノハちゃん。

 カコさんを差し置いておせちを食べ始める。


「そんながっつかなくても大丈夫だよ。さ、カコさんもどうぞ」


 おせちはうちの寮のリクエストで作った奴で、カコさん達にはお裾分けって感じで持ってきてる。


「それにしても先週の寒波は酷かったですね。まだ、たくさん雪が残っちゃってますよ」

「良い迷惑な話なのですよ。今度やったらくれーむを言ってやるのです」


 ピーチクパーチク文句言うのは程ほどにねー


「私も詳しい話は聞いてないのですが機器自体には特に以上はないようで、今も原因究明中のようです」

「うげぇ……また、発生するかも知れないってことですか。飼育員が過労死しますよ」


 私は飼育員総出でアニマルガール達やサファリの動物達の保護などに駆けずり回った事を思い出してげんなりする。


「いわゆるろーさいって奴なのです?」

「コノハちゃん、その単語何処で知ったの?あ、そうだ。カコさんはお正月の間は実家に帰らなかったんですか?」

「えーと……」

「カコ博士ならずっとここで研究していたのですよ」


 コノハちゃんがカコさんの代わりにお正月に何をしていたのか答えた。

 そっかー、カコさんもジャパリパークに缶詰めだったのかー


「あまり仕事ばっかりしてると家族に心配されますよ」


 ちなみにうちの家族は全く私の心配をしてない。

 私が電話をしている後ろで賑やかなアニマルガール達の騒ぐ声が聞こえて、エンジョイしてるんだなって思われた。


 私だけ除け者にして温泉旅行行きやがって!

 こっちもジャパリパークの温泉見付けて写真を送り付けてやる!


 と、そんなこと考えてたらカコさんの顔色が段々と悪くなってるのに気が付いた。


「カコさん、何やらやらかした顔色してますけど?」

「れ……連絡……忘れてた……」


 カコさんが消え入りそうな声で自分のやらかしを告白した。


「カコさん、手遅れかもしれませんけど、時間が経てば経つほどヤバいですよー」

「いいい今から連絡しま「テテーテテテー」しぃいうん」


 カコさんは慌てて家族に連絡しようとしてスマホを取り出したけど、タイミング良く鳴り出したせいで聞いたこともない声が飛び出ちゃったみたい。


「………」


 カコさんは着信画面を見て固まってしまっている。


 察した。

 察してしまった。

 これは……来ちゃったかなー?


「カコさん、ファイト!私とコノハちゃんは応援してますね!」


 カコさんはがっくりと項垂れながら通話に出る為に廊下の方へ向かった。


(どうして落ち込んだのです?)

(タッチの差で間に合わなかったんだよ。まぁ、つまり……これからメチャクチャ怒られる)

(珍しいのです)


 私とコノハちゃんで内緒話をしながらカコさんが帰ってくるのを待つ。

 コノハちゃんが自慢の聴覚を生かしてカコさんの声を拾ってるけど、内容的にメチャクチャ謝ってるみたい。


 うーん、気になるから私もドアに耳付けて聞いちゃおうかな?


「ヘァア!!?!?」

「「!?!?」」


 カコさんの突然の奇声に私とコノハちゃんは飛び上がる。


 何が起きたん!?


 私達は慌てて廊下の方へ飛び出る。


「カコさん!?どうし……たん……ですかい?」


 メチャクチャ驚いたポーズをしているカコさんの前に、如何にも先程まで電話してましたって感じでスマホを手に持った中学生くらいの女の子がいた。


「どなた?」

「あ、はじめまして。カコお姉ちゃんの従妹のナナです」


 なんと、カコさんの従妹がいらっしゃっていた。

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