第10話 金と銀
次に向かったのはおそらくグリズリーの部屋。
「……ジム?」
いいえ、グリズリーのお部屋です。
部屋の中には筋トレ器具が置いてあるけど、部屋の中でトレーニングしている姿は見たことがない。
外に持ち出して使用している。
こんな重いものを楽々持ち上げる筋力があってこそだけど、グリズリーに人間用のトレーニング器具で事足りるのか非常に気になるところ。
「カコさんも使ってみるか?中々楽しいぞ」
「え、遠慮します」
研究畑出身の人に筋トレを勧めるのはやめたげて。
次はインパラの部屋。
と行きたいところだけど、現在はインパラが留守なのでカコさんはスルー。
良くも悪くも普通のお部屋でこの寮の中では一番散らかっている部屋。
寝るとき以外この部屋に居ない筈なのにどうしてここまで散らかるのか理解できない。
次はダチョウ。
「フフフ……ようこそ、私の部屋へ」
「お、お店?」
たぶん、ここが一番異質だと思います。
部屋の雰囲気は自室と言うより、何処かの占いの館。
丸いテーブルには水晶の代わりに黄金の卵が鎮座している。
「今、占いのお勉強をしているんです。よろしければ、何か占いましょうか?」
何が琴線に触れたのかわからないけど、ダチョウは占いにハマっている。
その熱意のおかげか5人の中でも最も早くひらがなを習得し、今は小学生の漢字に挑んでいる。
「え、えーと……では、研究の先行きを……」
「分かりました」
ダチョウは両手を卵に翳して意識を集中する。
その真剣な表情にカコさんも思わず息を飲む。
「……見えました。研究は思わぬ形で実を結ぶでしょう」
「思わぬ形……」
カコさん、占いをあまり当てにしちゃならんのですよ。
当たるも八卦、当たらぬも八卦。
未来はこの手で切り開くものです。
「ついでに今日の運勢も占って見ましょう」
そう言ってダチョウはテーブルの下から銀色の卵を取り出した。
「そ、それは?」
「これを手に持ってください。そうしたら軽く降ってみてください」
カコさんはダチョウに言われるがままに銀色の卵を縦に軽く振るとシャカシャカと軽快な音が鳴り、銀色の卵の下から鉛筆くらいの棒がにょきっと顔を出した。
「はい!今日のカコさんの運勢は大吉です!」
占いとおみくじの違いって何だろう?
最後にカワラバトの部屋は……
「あ、お昼御飯できたよー!」
私の昼飯コールにアニマルガール達がわらわらとリビングに集まってくる。
いつの間にか出掛けていたインパラとカワラバトも帰って来てるし……
普通の動物の時から思ってたけど、この子達ってご飯の時間にだけは正確なんだよねぇ。
「カコさんも食べて行ってくださいね」
「……はい」
ちょっとだけどうしようかとカコさんは悩んだけど、折角だからと思ったのか食べて行く事にしたみたい。
テーブルにご飯を並べて……と。
「いっただっきまーす!」
「「「「「いただきまーす!」」」」」
「……いただきます」
みんな相変わらずよう食うわー。
そして、意外とカコさんも無言でパクパク私の料理を食べている。
「……あ」
突然、カコさんの手が止まる。
さっきまで景気良く食べていたのに急に止まるもんだから、私も含めてみんなどうしたのかと手が止まってしまう。
「み、皆さんネギ食べても大丈夫ですか」
アニマルガール達全員の頭に疑問符が浮かび上がる。
「ネギってこの白い巻き巻きした奴?別に平気だけど」
そう言ってピューマはひょいとネギを口の中に入れる。
「い、イツキさん!」
「カコさん落ち着いてください。ネギじゃなんとも無いですから」
「ほ、本当ですか?」
ネギ。
と言うかネギの仲間は動物のエサにしちゃダメな植物。
大抵の動物には毒なんだけど、アニマルガールになって人に近い身体になったおかげか人が食べれるものは全部食べれるようになった。
……実は最初はうっかりネギを入れちゃって気付いた時には後の祭りだったんだけど、みんな何とも無いから今では普通に出している。
人の毒耐性ってかなりヤバイんだよねぇ。
「……そう言えば、アニマルガールになる前はネギを食べた事がありませんね」
「はーい!みんな残さず食べてねー!」
ダチョウが気付いてはいけない事に気付いたような気がするけど、ここは無理矢理誤魔化す。
「き、今日はありがとうございました。皆さん元気なようでホッとしています」
「毎日、みんな元気ですけどね」
「な、何か困り事がありましたら遠慮なく相談してください。力になります。絶対」
そう言ってカコさんは寮から去って行く。
「カコさんも心配性だなぁ」
突然の訪問はちょっとだけ驚いたけど、次もまた来てくれるかな?
さーてと、私も自分の仕事を頑張らなくちゃ!
三日後……
私はレポートの書き方が分からなくてカコさんに泣き付く事になるのだが、それはまた別のお話である。
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