第7話 捜索隊

 自転車に乗って出掛ける飼育員を見えなくなるまで見送ってからアニマルガール達は行動を開始した。


「どうやってインパラを探そうかしら?」

「匂いは……追えんな」


 インパラを追おうにも既に匂いは辿れなくなっており、早速探索は暗礁に乗り掛けていた。


「はーい、良い考えがあります」


 と、そこでダチョウが取り出したのは一本の木の棒。


「それって、木の棒……よね?」

「それで何をしようと言うんだ?」

「こうします」


 ダチョウは木の棒をそっと地面に立てる。

 すると、木の棒はゆっくりと傾いていき、東方向へと倒れた。

 所謂棒占いだ。


「きっと、インパラさんはあっちにいます」

「そうなのか」

「おー、便利そうね」


 もしも、仮にここに飼育員がいたらそんなので分かるわけ無いやろがぃ!とツッコミを入れるところではあるが、残念ながら肝心の飼育員は不在である。


「しゅっぱーつ!」

「「「おー」」」


 と言うわけで不安だらけのアニマルガール達のみの捜査が始まった。

 ダチョウの棒占いに従いながらテクテクと徒歩でインパラを探していく。


「他のしーくいんさん達もここら辺の家に住んでるのよね。その割にはすっごい静かだけど」

「仕事中なのだろう。仕事はワタシ達で言うところの狩りに当たるってしーくいんさんが言ってたからな」

「狩りは大事よね。久々に狩りしたくなってきたわ。あーでも、狩っちゃったら怒られちゃうか……ねぇ、ダチョウ、狩り“ごっこ”しない?」

「良いですよ。でも、私はかなり速いですよ」

「瞬発力なら負けないわ。カワラバトもやる?」

「ほぇ?」


 果たしてカワラバトは話を聞いていたのだろうか?

 こんな感じで雑談をしながら進めていると何人かがとある事に気が付いた。


「あれ?ここ、さっきも通らなかった?」

「引き返すか?」


 ピューマとグリズリーが同じ道を通ってると思い込み、引き返そうとしたときにカワラバトがそれを否定する。


「通ってないよ。住宅地は大体こんな感じ」


 土地の権利問題などが発生していないジャパリパークにおいて、住宅地は非常に効率を重視した作りになっている。

 故に似たような建物に似たような道が多くあり、非常に迷いやすい。

 インパラが迷ってしまうのも無理はない。


「カワラバトって、実は凄い?」

「ウチは都会出身だから、これぐらいよゆー」


 そう言ってカワラバトは胸を張る。

 生息域で言えばピューマとグリズリーが辛うじて人の生息域と重なる程度、ダチョウとインパラに至ってはほぼ無縁。

 この中では一番密接に人の暮らしと関わってるのはカワラバトくらいだ。


「とかい……強そうな響きね」


 おそらく、都会出身と威張っても正しく意味が通じるのは飼育員だけである。


 その後もアニマルガール達は根気よくインパラを探し続けたが、中々見付からない。

 既に住宅地の中には居ない可能性もあるが、インパラは帰りたがっている筈だと捜索を続行する。

 だが、アニマルガール達も生き物である。

 少々疲労も溜まってきたし、お腹も空いてきた。


 アニマルガール達はちょうど見付けた小さな公園で一休みをすることにした。


「インパラ、何処に居るのかしらね?」

「大丈夫、これで必ず見付かりますよ」

「……それで本当に見付かるのか?」


 アニマルガール達とて知識がないだけでバカじゃない。

 グリズリーも棒占いの力を怪しみ始めた。


「えい」


 ダチョウが立てた棒が倒れる。

 その先は小さな公園の茂みを指しており、その茂みの下から見覚えのある角っぽいアホ毛が飛び出していた。


「あ!インパラ!」


 茂みに近付くと中にはインパラが眠っていた。


「インパラ、起きて。起きないとわたしとグリズリーで食べちゃうわよ(お弁当を)」

「うわぁ!食べるなぁ!」


 肉食獣のピューマが食べると言った瞬間に草食獣のインパラが飛び起きる。


「おはよ」

「み、みんなー!うわーん!もう帰れないかと思ったよー!」


 ミッションコンプリート!

 アニマルガール達はインパラを発見することに成功した。


「これで心置き無くお弁当が食べられるな」


 アニマルガール達は公園で飼育員から手渡されたお弁当を開ける。


「しーくいんさんの料理だー!うまそー!」

「そう言えば、インパラは朝は何食べてたのよ」

「その辺の草だよ」

「しーくいんさんが料理した草は美味しいけど、生の草って美味しいの?」

「食べれなくはない」

「食べれなくはないですね」


 と、草食二名が返事を返す。


「あたしは肉を美味しく食べれるのが信じられないぞ」

「そう?お肉美味しいわよ。ね?グリズリー」

「ワタシは元から何でも食べれたから肉も草もイケるな。カワラバトはどうだ?」

「ウチはパン派」


 元動物の食生活が垣間見えるアニマルガール達の会話。

 今の身体になって食べれるものの幅が増えたが、好物は元の食性が反映されているようだ。

 しかし、全員のお弁当箱が空になっているところを見る限り、あまり極端な好き嫌いは無いように見える。


 お弁当を食べ終わったアニマルガール達はカワラバトの案内に従って寮に帰る。

 その後、帰って来た飼育員にインパラが叱られる事になったのは言うまでもないだろう。

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