第21話 喫茶ジャパリ
「カコさーん!こっちですよー!」
私はいつもと変わらず白衣を着た長身の美女に手を振る。
「お、お待たせしました。その、ま、待ちましたか?」
「全然待ってないですよ。さて、様式美な問答が終わったことですし、さっそく中に入りましょうか」
「よ、様式美って何の事ですか?」
カコさんはデートの待ち合わせの様式美的なやりとりを知らんらしい。
今回来たのはセントラルエリアの居住区の片隅にひっそりと佇む喫茶店。
名前は喫茶ジャパリ。
今は店内はあまり混雑していないようで、私達の他にもう一組しかお客はいない。
「いらっしゃいませ」
「おっす!飲みに来たよ」
出迎えてくれたのは喫茶店の制服を着たインパラ。
喫茶店の雰囲気を崩さない落ち着いたデザインのメイド服のような制服。
メイドだから如何わしいとは限らないのだよ!
「おっ!カコさんも一緒なのか。空いてる席へどうぞ」
私とカコさんはインパラに空いてる席へと案内される。
「注文が決まったら声を掛けて」
そう言うとインパラは他のお客さんの方へ行ってしまった。
うむ、しっかり仕事しているようで安心したぞぃ!
「インパラさんが喫茶店で働いているの……い、意外です」
「カコさんもインパラはもっと身体を動かす仕事をすると思ってましたか?」
カコさんは私の意見に同意するようにチラッと仕事をするインパラを見てからうんと首を縦に振る。
「どうもグリズリーに影響されたみたいですよ。あたしも普段やらないことやってみようかなって訳でここ選んだんですって」
「そう……なんですか」
まぁ、その結果として楽しくお仕事が出来てるんだから問題なし!!
「じゃ、早速何か頼みましょうか。えーと……?」
メニューを開いて最初に飛び込んできたのは、コーヒーのメニューにオススメと書かれている『ジャパリブレンド』。
「ジャパリパークのジャングル地方で取れたコーヒー豆を贅沢に使用した当店オリジナルブレンド……ジャパリパークってコーヒー豆が取れるんですか?」
「じ、ジャパリパークの一部ではその気候を利用した農作が実験的に行われている場所があります。せ、セントラルエリアでは行われていないので、イツキさんが目にする機会はす、少ないかと……」
「へー……今度、社会見学で組み込んで見ようかな?」
ただ私が見てみたいと言うのも半分くらいあるけどね!
話が逸れちゃったけどコーヒー頼まなきゃ……あ!
コピ・ルアク……
「……カコさん、これ行ってみます?」
「……い、イツキさんこそどどどどうですか?」
「いやー、さすがにここまで高いコーヒーは頼めないですよ」
「じ、実は私、せせ節約月間なんです!」
………………
「最初の一歩ってかなり勇気が要りますよね」
「そうですね……知識がない方が良かったかもしれません。たぶん」
結局、私達はジャパリブレンドを注文した。
ところでコピ・ルアクがどんなコーヒーかって?
ジャコウネコって言う動物が作るコーヒーです。
それ以上は知ってはいけない。
「はいどーぞ」
「ありがとう」
「あ、ありがとうございます」
流石お店のコーヒー!
インスタントじゃあり得ない香りの高さがある。
うーん、でも……
「こう言うのってブラックのままが良いのか……?」
普段は砂糖を入れるんだけど、せっかくのお店のコーヒーだしそのままブラックで飲むのが良いのかな?
「しーくいんさん、ますたーの受け売りだけど、コーヒーはその人が一番美味しいと思う飲み方で飲むのが"つう"らしいよ」
「なるほど!深い!」
カウンターの方を見ると人の良さそうなお爺さんの喫茶店のマスターがこちらを見てにっこりと微笑んでいる。
このマスター……出来る!
「ところでインパラはブラックで飲めるようになったの?」
「アハハ……実はまだ」
もしかして、喫茶店のマスターはインパラを気遣って言ってくれたのかな?
「でも、頑張って飲めるようになる!」
「おう!頑張れ!」
インパラは頑張る宣言をした後にカウンターの方へ行く。
今みたいなお客さんの少ない時間にインパラはコーヒーの淹れ方を習っているようで、サイフォンの前で喫茶店のマスターから手解きを受けている。
だけど、インパラに取ってサイフォンは物凄い鬼門。
だって、インパラを含めてアニマルガールの大半は火が苦手だからね。
サイフォンの下でアルコールランプの火が灯るのを見て、恐怖で思いっきり身体を仰け反らせながらも気合いでコーヒーを抽出している。
火を直接使わないで済むドリップ式の方が良いんじゃないかと思うんだけど、それでもインパラはサイフォン式に挑戦をしたいみたい。
インパラの奮闘を見ながら私達はコーヒーに口を付ける。
何とも深い味わい……
「そう言えば、カコさんがどうしてこの仕事をしようと思ったんですか?確か、絶滅動物の研究でしたよね?」
「ど、動物が好きなので……あと、きっかけと言えば……」
カコさんは昔を思い出すようにぽつりぽつりと絶滅動物の研究に着手するまでの思い出話を始めた。
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