第26話 青蘭堂ちゃっかりしているの巻
あれから異常行動に目を光らせつつ、薬を飲ませ続けた5日後、おまつさんは無事に全快した。よっしゃ、現代の薬は世界一ィィ!
異常行動の心配も無くなった僕達はようやく、長屋へ戻り生活が通常モードに戻った。懸念してた他の人への感染も無さそうだ。
さて、本格的に再び140キロのものを探さないとな。
「また湯屋で聞き込みますかね?」
「うーん、最近は手詰まりだよな。何か文献がないか調べた方が早くないか?」
確かに何日も聞き込みしているが、新しい情報もアイデアも枯渇していた。何か別の方法を調べた方がいい。
「文献って、どこにあるんですか?」
「そうだよなあ、俺もからっきしわからねえ。」
「それについてはお任せください。」
不意に戸が開いて藤兵衛さんがやってきた。なんかタイミングいいなあ。まさか、戸口の前に待機してたのか?
「あ、藤兵衛さんこんにちは。」
「お話は以前から伺ってましたよ。……それでここだけの話ですが、実は佑真さんこそが天狗山の天狗なのですよね。」
僕達は固まってしまった。な、どうして一部とはいえバレてしまったのだ?!
「当てられたという顔してますね。理由もお教えしましょうか。お二人が執拗に“半刻で三十五里”進むものを聞き込んでいるからです。戯作の話ならば、無理と思えば書き直せば済む、あるいはそのまま架空の話を書けばいい。しかし、先生は頑なに書かずにその設定が実在しないかとこだわっている。」
「ぐ……。」
「加えて、佑真さん。あなたの現れ方もいろいろおかしい。長崎から来たという割には、江戸の町、いや人の暮らしを知らなさすぎる。
それに、ならず者の辰五郎をやっつけたあの道具を使った身のこなし、いろいろと人間離れしている。」
そ、そうなのか?でも怪しまれていたのか?!
「そして、その髪型も長崎に出入りしている商人から聞きましたが、そのような髪型は流行っていないと裏をとりました。」
藤兵衛さん、恐るべし観察眼とコネクションだ。当たらずとも遠からずと言った所だ。
「まあ、言いふらしはしませんよ。それでですね、私に提案があります。」
提案?
「その早く動く物を見つけるのなら、それを投げられる者を探すのです。力比べを開催するのですよ。」
「「力比べ?」」
「見たところ、その細長い棒が天狗の杖であって、それに当てる“早い物”をお探しなのでしょう?ならば、それを投げられる人を競わせるのです。
まあ、判定方法はこれから決めるとして、優勝者には酒を振る舞うようにすれば、腕に覚えがあるものが集まるでしょう。」
しまった、タイムマシンもたびたび見られていたのか。しかし、藤兵衛さんの提案の方が確かに現実的だ。しかし、そんな大会を開くような伝はない。
「しかしよぉ、そんな伝も金も俺たちにはないぜ。」
源左衛門さんも同じことを思ったようで、異議を唱える。
「それはこの青蘭堂におまかせください。いろいろと伝もお金もあります。」
おお!すごいぞ、儲けてたのか、青蘭堂!
「その代わり、戯作はうちが独占させていただきますよ。書いていただけますよね?」
う……そういうことか。やはりただでは動かないよな。
「……しょうがねえ、その話受けらあ。」
「いやあ、さすが先生だ、話が早い!では早速手配しましょう。」
思わぬ形ではあるが、こうして140キロで動くもの探しに大きな進展があった。確か、あのタイムマシンに簡易であったが、スピードガン機能があったはずだ。それでこっそり速度を計ればいいだろう。
※江戸の娯楽は様々ありましたが、第7話で紹介したとおり識字率が高かったため、娯楽としての本が普及し始めました。京都は仏書や古典などが出版され、大坂では重宝書という実用書が売られました。それに対抗するかのように、江戸では学術書を扱う書物屋と娯楽的な絵草紙を扱う絵草紙屋が発展していきました。
有名な「東海道中膝栗毛」はもう少し後の時代(1802年)であり、作家が職業として成り立つのもこの頃からです。
平賀源内も発明家以外にも浮世絵や戯作、コピーライターとしてマルチな活躍していたのも、専業作家だけではやっていけなかった事情があったのかもしれません。
だから、本文の源左衛門さんも戯作だけではなく春画を書いたり発明品を作ってどうにか生活してます。
現代も専業作家では食べていけない時代と言いますし、嫌な方向に回帰しているのでしょうか?
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