第7話 戯作と……絵っ?!

 とりあえず、お昼になった。僕が調理をさせてくれと申し出て、先ほどの野菜を料理した。姉貴に料理を叩き込まれたのが幸いした、と言いたいが、レンジもガスコンロも無いから苦労した。

 結局、茄子は七輪を使って焼き茄子、大根はおろしにした。残りは塩でもみ、夕食なり明日の朝ご飯に回すことにする。冷蔵庫がないから塩気を増やすが、痛まないかな。夏だから干し野菜にした方が良かったかな。

 それと、さっき買った冷奴と。

「おっ、今日は佑真のおかげで品数増えたな。」

 これで品数が多いということはやはり、江戸時代って質素なんだな……とほほ。ご飯は朝炊いたご飯だから、当然冷や飯。ああ、温かいご飯って、それだけで贅沢だったのだな。


「おう、それからな。飯を食ったら着替えろ。その格好は目立ち過ぎる。」

 確かに今朝は長屋の人達など、いろんな人にじろじろ見られた。

「髪の毛は……まあしょうがねえな。かぶき者とするには、ちょっと違うな。」

 確かに髷を結うには短いし、かつらは無いだろうし、このままでいいか。茶髪にしてなくて良かった。してたらきっと、バテレンだとか何かと異端者扱いされる。

 で、金属バットタイムマシンを充電している間は暇だから、どうしよう。いや、時速140キロの物体を探すなり、作り出さないとならないから暇なんて言ってられない。

「時速140キロ……。うーん。」

 昼を食べている間も僕は唸り続けていたのを見かねたのか、源左衛門さんが提案してきた。

「まあ、来たばっかであんまり考えても煮詰まるぜ。ま、江戸のものを見てみるのも一興じゃねえか?」

 そういえば、源左衛門さんの“発明”ってなんだろう?覚書を書くくらいだから、何か発明しているはずだ。

「源左衛門さんの発明や作品ってどんなのですか?」

「ん~、発明は野菜の皮をむく道具とか野菜を均等に切るまな板とか……まあ、売れねえけどな。」

 なんだか主婦の発明品だな、さっきの話だと江戸は自炊する人が少なそうだし、需要と供給が合ってないような気がする。

「あとは石綿を使った火が付いても燃えない布とか……。」

「って、それは火完布かかんふという平賀源内の発明品では?」

 僕がとっさに突っ込むと、源左衛門さんは不機嫌になった。

「ああ、コツコツ研究してたらいつの間に叔父貴にかっさらわれてた。でも、手間暇かかる割には服にするほどできないんだよな、あれ。」

「……絶対に服にしちゃダメです。それ以前に石綿に触っちゃダメっ!」

 石綿の恐ろしさがわかってきたのも、平成に入ってからだ。無知というか、わからないって本当に恐ろしい。話を変えよう。

「げ、戯作や絵はどんなのを?」

「おう、戯作の最新作はこれだ。そら、版元から一冊もらったやつだ。読んでみろ。」

 山積みになっている冊子の山のてっぺんを出してきた。受け取って開き、読んでみる。

 ……。

 …………。

 ……………。


 うねうねしていて、読めないっ!


「すみません、読めないです。」

「あん?そっちにも手習指南所みたいのはあるだろ?」

「ありますが、習うのは楷書体のみです。草書体は書道をやる人しか習わないので。」

 そう、この時代は草書体がメインだから読めない。ああ、書道を習えばよかったと後悔しても遅い。

「しょうがねえな。話の筋をざっと言えば、ある水茶屋の娘に惚れた商家の息子が想いを叶えようと、周りを巻き込んだ滑稽本だ。」

 つまり、江戸時代のラブコメか。うーん、こんな時代からラノベがあったのか。


「で、絵はこれだ。まだ下絵だから粗いけどな。」

 と、出してきたのは……裸の男女が絡み合う絵。こ、これはR指定の絵じゃんっ!うわ、モザイクも塗りつぶしも無い、あれもあれもはっきりと書いてあるっ!生々しいよ、これ!

「うわわわわ?!」

「何でい、こんな春画で赤くなってんだよ。」

 そ、そっか春画は江戸時代のエロい絵か。とどのつまり源左衛門さんは江戸時代の同人作家なのか。

 ……あとで、清書した絵を見せてもらおう。


 ※江戸時代は義務教育の概念はありませんでしたが、読み書きやソロバンは手習指南所(西日本は寺子屋と呼ばれ、江戸は手習指南所と呼ばれていました)で学んでいました。一説には識字率は70%とも90%とも言われ、同時代の諸外国より識字率は群を抜いて高いものでした。ちなみに当時のフランスは1~2%しかなかったとか。

 戦後、GHQが識字率の低さを理由に漢字を廃止しようとテストしたら、予想以上の高い識字率が出て廃止を免れたエピソードは有名です。

 昔から、日本人は学習が好きだったのでしょうね。

 ちなみに作者は仕事の勉強は苦手です。

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