第6話 棒手振り

 そうやってお互いに情報交換をしていると、外から何か掛け声が聞こえてきた。


「お、棒手振りが来たな。」

 ぼてふり?

「商品を桶に入れて、それを担いで売る人のことさ。」

 現代のデリバリー販売という訳か。

「そうだな、暑いし、昼は奴でも食うか。おーい!こっちに豆腐をくれ!」

「あい、毎度あり~。」

 冷蔵庫はもちろん無いから、土間の台所に豆腐の入った器を置く。

 江戸時代も生姜醤油で食べてたのかな?

「そうすると、あとは生姜と醤油ですね。」

「おっと、いけねえ。醤油を切らしてたな。」

「買いに行きましょうか?」

「いや、そのうち来る。来なければ隣から借りる。」

借りるって昭和だなあ、ってそれよりも前の時代だった。

「醤油~、醤油~。」

「そら来た。」

 ホントに売りに来た。

 この時代の調味料は量り売りで、手持ちの容器に移してお金を払う。だからペットボトルの現代と違ってエコだな。

「あとは生姜ですね。おまつさんの八百屋へ行きましょうか?」

「い、いや、それも売りに来るからいい。」

 おまつさんには余程会いたくないようだ。僕が行っても新たなバトルが発生しそうだし。

 そうこうしていると、野菜の棒手振りがやってきて調達ができた。

「ふええ、本当に家にいながらにして何でも買えるのですね。」

「おうよ、江戸は独り身が多いからな。惣菜や菓子も売りに来るし、屋台もあるぜ。こちとら籠って仕事をする身にはありがてえ存在さ。」

 ……現代でも、独身者がコンビニに出てご飯を買うのに通じるものがある。

「……240年経っても変わらないのだなあ。」

「?」


 ※江戸時代は棒手振りと呼ばれる物売りが、品物を売り歩くのが一般的でした。竿と桶とがあれば手軽にでき、店舗を構えるより楽に商売ができたからです。

 品物は魚や野菜などの生鮮食品、醤油や油などの調味料、菓子、ホウキや風鈴に金魚など多岐に渡りました。

 資金がなくても、朝に百文を借りて夕方に百一文を返せば良いという条件で融資する業者もいました。

 …えーと、トイチならぬユウイチ?いや、ちょっと違うか。とにかく利息制限法も真っ青になる金利ですね。

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