第8話 江戸っ子はお風呂好き……になるよね。

 昼を済ませ、着替えた僕は源左衛門さんに連れられて、江戸の町に繰り出した。

「まずは湯屋行くか。」

「え?まだお昼過ぎですよ?」

「江戸っ子は何回も湯屋へ行くもんさ。理由は歩いていればわかる。」


 確かに江戸の人は風呂好きとも、きれい好きとも言われていたけど、某国民的マンガのヒロイン並みに頻繁に風呂に入ってたのだろうか。

 そう思いながら歩いていたが、間もなく答えがわかった。


 アスファルトなんて無い時代だから、道路は土だ。晴れていれば土の表面が乾いて砂ぼこりが舞い上がり、草履はあっという間に砂が入り、ジャリジャリしてくる。

 当然、頭も顔も体も土臭くなる。

 商家の前で打ち水している人がいるが、冷やすだけじゃなく、ほこりを抑えるためでもあるのだろう。


 こりゃ、確かに何回も風呂に行きたくなる。

 アスファルトって偉大!いや、それが熱を蓄えてヒートアイランド現象を引き起こしてるから一長一短か。その点ここは、まだ温暖化が無いからか暑くても現代より楽だと感じる時点で、いかに平成の天候のヤバさがわかる。


「ま、湯屋へ行くのは汚れ落としだけじゃねえよ。」

「風呂上がりの牛乳ですか?」

「牛の乳を飲むのか?あれは将軍様や大名しか飲まないぞ?」

 そっか、まだまだこの時代は庶民には牛乳はメジャーではないのか。じゃ、なんだろ?

 そう考えながら歩いていても、埃っぽい風は容赦なく顔や頭を吹き抜ける。

 あれ?見覚えのある人が前から……やってくる。

「あら、二人で仲良く湯屋ですか。」

 はうっ!おまつさんと会ってしまうとは。どうやら彼女も湯屋帰りのようだ。

「おうよ、江戸の湯屋を知らねえってんで、案内してるところよ。」

「こ、こんにちは。だから僕は源左衛門さんの甥でして、佑真と言います。って名乗ったか。」

「ふん、ご挨拶ね。」

 思い切り敵意のこもった目付きで僕を威圧しようとしている。

「あのお、おまつさん、僕はちゃんと故郷に許嫁が……。」

「誤魔化さないでっ!あたし、負けないからっ!」

 そう言うとおまつさんはわざと足音を立てるようにして去っていった。

「どうしましょう?あれ?」

「ほっとけ。人の噂も七十五日だ。妹は素直で可愛いんだが、姉妹でなんであんなに違うんだか。」

 いや、ゲイ疑惑を払拭しないとタイムパラドックスが起きると直感してる自分にはほっとけない。ああ、平成に戻るのと、ゲイ疑惑を晴らすのと……って、課題がどんどん増えている。でも、可愛いというおまつさんの妹もちょっと気になるぞ。


「さ、着いたぞ。」

 そこには大きな建物。でも、『男湯』や『女湯』の表示が無い。しかし、客はそんなこと気にせず男女入り雑じって入っていく。ま、まさか混浴なのか?!

 さっきの春画といい、平成の男子高校生には刺激が強すぎるぞ、この時代!


 ※江戸っ子はとにかく風呂に入るのが好きでした。中には1日に三回とか四回入る人もいたそうです。当然洗いすぎなので、皮膚の油分が抜けて粉を吹いていたそうですが、「江戸っ子の証だ」と粋がっていたとか。

 逆に髪の毛は洗うのが1ヶ月に一、二回だったと言われています。理由としては髷や島田結いをするのが大変だったからでしょう。


 で、風呂好きの理由の1つが本文にある通り、江戸の道路事情が悪く、埃っぽかったことにあります。

 他にもありますが、それは次回以降に紹介します。

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