バットを振ったら、そこは江戸だった

達見ゆう

第1話 発明品は金属バット?!

 僕は佑真。都内の17歳の高校生。帰宅部で成績も普通、可愛い彼女の美咲もいるし、平凡な人生を過ごしていると思ってた。つい、さっきまでは。


 僕は河川敷で金属バット片手に呆然としていた。真っ暗で、わずかな月明かりがかろうじて周囲を照らしている。

「マジかよ、あの橋、木造……だよなあ?」

 なぜ、こんな事になったのか。話は約一時間ほど前に遡る。


「博士、こんな急に呼び出してどうしたのですか。」

 僕は隣の家に住んでいる平賀博士に呼び出されて遊びに行った。発明家でいろんなものを作っているが、実用化しているのかどうか怪しいものが多い。博士曰く、「ちょこちょこ売れている。」というから、稼いではいるだろう。

「やあ、佑真。遂に大発明をしたのだ。君に歴史的な証人になってもらうと共に、記録係をお願いしたくてな。まずはハンディカムの準備だ。それから室内では無理だから河川敷へ行こう。あそこなら安全に検証できる。日が暮れてきているが、まあ何とかなるだろう。」

「博士、一体何を…。」

「いいから、いいから。」

 そう言うと、博士は僕にハンディカム一式が入ってると思しきショルダーを持たせ、飛び出してしまった。こうなると博士に付いていくしかない。僕は慌ててハンディカム一式を肩にかけて一緒に走り出した。

 って、重てぇ!博士、また何でもかんでもバッグに放り込んだな!

「佑真、そこのバッティングマシンも忘れずにな!」

 ええ!さらに荷物?!めちゃくちゃ重そう!チャリンコの荷台に載せるが、それでも重たい。それに博士はさっさと行くので慌てて漕いでいたので、かなり重労働であった。


「ぜえ、ぜえ、帰宅部に大荷物持たせて、は、走らせるなんてひどい。」

 僕の恨み言など意に介さず、博士はバッティングマシンを組み立て、ハンディカムを起動させるように言い、しゃべり始めた。

「私こと平賀大博士は大発明をした。それは時間を往き来できる機械だ。」

「何だって!?」

「佑真、撮影係にはおしゃべりは不要だぞ。」

「自分で大博士に大発明って言っちゃう?!」

「ツッコミはそこかっ!まあ、いい。

 きっかけはご先祖様、平賀源左衛門が残した書物『発明覚書』に『未来から来た人』及び『時を駆ける機械』の記述があったことであった。以来、平賀の家は代々発明家として生きてきた。ここで、本を掲げ…あ、本は佑真に持たせたショルダーの中だったな。』

 平賀家って、代々胡散臭い職業をしてたんだな。

『まあ、いい、説明を続けよう。その理論を元に代々研究を続け、平成も終わりのこの時についに完成した。

 この金属バットに時速140キロの物体をぶつけるとかくかくしかじかで膨大なエネルギーが発生して、時空への干渉がなんとかかんとかで、好きな時代へ行けるのだ。」

「すごいや、かくかくしかじかや、なんとかかんとかって説明は理解できないけど博士、大発明じゃないですか!」

「そうだろう、このバットのグリップ部分にタイマーがある。時間を設定して、140キロの物体を打てばいいのだ。このバッティングマシンは140キロの豪速球が出るように改造してある。ちなみエネルギーは地球に優しいソーラーだ。」

「じゃあ、早速バッティングマシンを…ん?」

 その時、如何にも過激派という塗装の車に乗った連中が、僕達の元へ猛スピードで向かってきた。

「まずい、奴等が来た!」

「奴等?」

「このタイムマシンを作る資金稼ぎにテロリストに偽爆弾を作ってたんだが、バレたようだ。やはり、黒ひげ○機一髪に少し火薬を仕込んだ物はダメだったな。」

「逆に、なんでそれで騙せると思ったのか、僕が知りたいです。」

「話は後だ、逃げるぞ、佑真!バットは持ったな…!あーれー!」

 言い終わらないうちに緊迫感ゼロの悲鳴をあげて博士は車に跳ねられた。そして車はターンして、僕に向かってきた。僕は慌てて金属バットを片手に博士のチャリンコに乗り、逃げ出した。なんだよ、博士のチャリンコはスポーツサイクルじゃねえか、だから速かったんだな。

 そのまま飛ばし、車が通れない所を抜けて逃げようとしたが、かなりのスピードだ。スポーツサイクルとはいえ、追い付かれるのも時間の問題だ。

「すげえスピード、河川敷だから全力で飛ばしてるな。140キロの物体…そうだ!ボールとは言ってなかったからあれもいけるんじゃないか?」

 僕はスポーツサイクルを乗り捨て、金属バットのグリップの時刻を適当に変えた。未来はまずい、テロリストがどこにいるかわからないから過去だ。適当に年を遡らせる。

 そして、猛スピードで迫る車に対して僕はチャリンコから飛び降り、金属バットを構え、思い切り振りかぶった。どうせこのままでもひき殺される。一か八かの賭けであった。

「タイムトラベルが先か、異世界転生が先かあ~!!!」


 カキィーン…!


 賭けには勝ったようだ。バットと車がぶつかった瞬間、ものすごいエネルギーフィールドが発生し、僕は過去へ飛ばされた。


 そして、街灯が無い真っ暗闇の河川敷にいるという訳だ。タイマーは適当に変えたが、街灯が無い時代まで来てしまったという事だろう。

 バットのタイマーを確認すると、『1776/08/01』と表示されている。

 …西暦と元号は詳しくないが、多分、江戸時代。このタイムマシンが正しく作動したのならば、僕は江戸時代に来たことになる。

「…マジかよ、あの橋、木造だよな。」

 僕は河川敷で金属バット片手に呆然としていた。

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