第24話 副作用…だよね?

 高熱で朦朧としているおまつさんに薬を飲ませた。あとは副作用に目を光らせるだけだ。

 しかし、あれだけ元気でやかましいくらいだったおまつさんがこんなに無口なのは、やはりそれだけ症状がヤバいと言うことなのだろう。

 3人が起きていてもなんだから、交代制にしようということでおじさんには仮眠をとってもらっている。夜更かしに慣れている現代っ子の僕が適任だろうということもあるけど。

 夜の闇、行灯と僕のペンライトのほのかな灯りの中、おまつさんの咳とお湯が沸く音だけがする。

「源左衛門さんも少し寝たらどうですか、僕はまだまだ起きていられますから。お梅ちゃんもそろそろ寝ていいよ。夜更かししすぎると流行り風邪が移るリスク……危険が高くなる。」

「はい、そろそろ寝ます。佑真さん、お湯のこと、頼みますね。」

 と、言っても長屋よりは広いが、八百屋の二階は狭い。病人含めて5人ひしめき合っている雑魚寝状態だ。さすがにお梅ちゃんには感染リスクを避けるために、一階の店舗の奥の部屋で寝てもらうことにした。

「しかし、俺の子孫の大博士がそそっかしいおかげなのと、佑真が来てくれて助かったな。」

「今回ばかりはそう思います。」

「しかし、240年経つと薬が庶民でも安く買えるんだな。」

「ええ、国民健康保険制度のおかげです。だから、僕の時代は子供が死ぬのは稀です。」

「そりゃいい時代だ。でも、薬があっても死ぬ病気とは恐ろしいな。いんふるえんざというのは。」

「はい、この薬のおかげで助かる人は格段に増えましたが、子供や年寄りは未だに亡くなる恐れが高い病気です。あとは栄養を取らせないと。僕の時代は食事は豊富ですからね。とりあえず、博士のショルダーにビタミン剤……いえ、栄養になる薬が少し入っていたからそれもあとで飲ませましょう。」

「いろいろとすごいな、平成の時代は。」

「いいことばかりではないですよ、平成も。水や食べ物は確かに豊富だけど、生産量を増やすために農薬や消毒薬……強い薬を使ってるから長年食べていると人によっては健康被害が出たり。 原発事故と言って、数十年から数百年は人が住めないくらい土地や水が汚れてしまったり。外国からの脅威もありますからね。」

「そっか、大変だな、平成も。しかし、戯作にするには面白いな。あとでいろいろ教えてくれ。」


「うう~ん……。」

 その時、おまつさんがうなされ始めた。もしかしたら異常行動の始まりかもしれない。僕たちはおまつさんの両側に座り直し、スタンバイした。

「源左衛門さん、暴れたら抑えて布団ですよ、何か変なこと言っても、薬が言わせてるだけですから。狐憑きではないので、怖いものではないですからね。」

「あ、ああ。」

 固唾を飲んで見守っていると、おまつさんは体を起こしてきた。まずい、ついに懸念していた異常行動か。飛び降りしないように…あれ?

「いよいよか、おぉぅ?!」

 おまつさんはそのまま源左衛門さんに抱き着いてきた。

「源さん~、こんなに好きなのに、どうしてわかってくれないのぉ。」

 そう言ってシクシクと泣き始めた。

「え?!な?!おい!?」

 この薄暗い中、こんな高熱なのに、きちんと間違えずに抱き着くとは、おまつさんは本当に源左衛門さんが好きなんだな。

「そりゃ、あのガキより不細工だけど男に負けたくないのよぉ。」

 ガキとは失礼なタメなのに……ってまだ勘違いしてるんかいっ!!

「料理だって頑張るから、ねえ、どうして?」

「お、おおおおい、佑真、これも副作用なのか?」

「えっと、多分そうです。」

「って、病人とは思えないすげえ力だぞ!」

 源左衛門さんは抱き着かれてガッチリとホールドされた状態なので、抑えようにも動けなくなっている。

「だから物凄い力で暴れるって、いや、ちょっと違うのか、うーん。……おまつさんの咳に気を付けてそのままやり過ごしてください。」

「お、おいぃぃぃ!」

「源さああん、どうしてえええ?!」

 思ってたのと違うカオスだ。しかし、効いている証拠だと思うことにしよう、こういう時こそポジティブシンキングだ。


 ※引き続き、医療のお話。医者にかかれない庶民は、民間療法以外では神頼みやおまじないに頼っていた部分もありました。

 例えば、「久松るす」という紙を戸口に貼るとインフルエンザ除けになると信じられていました。これは浄瑠璃の登場人物の「お染」からインフルエンザが「お染風邪」と名付けられていた際に「お染さん、あなたの愛しい久松さんはここに居ないから入ってこないでください。」と言う意味だったとか。

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