第16話 おまつさん、意外と苦労しているの巻
「おはようございます、おまつさん。差し入れありがとうございます。」
「あら?甲斐甲斐しくご飯作り?」
うう、怖い。何から何までライバル視している。
「い、いえ!ただ飯喰らいはなんですから、家事くらいはやろうかと。」
「ふん、ごますりかい。」
「おまつさん、もう少し敵意を引っ込めてもらえませんか。僕にはちゃんと許嫁がいるのですから。」
「恋敵に優しくなんてできないのでね。」
本当に人の話を聞かない人だな。僕は大きくため息をついてしまった。
「はあ、妹さんは素直なのにどうして違うのだろ?」
「お梅のことかい?そりゃ、あの子の方が美人さね。周りから愛されるさ。」
僕の何気ない発言が、おまつさんのスイッチを入れたらしい。饒舌に話し始めた。
「おっかさんが三年前に流行り風邪で亡くなってからは、私が母親代わりに育てているのさ。あの子はこのまま素直に育って、いい所へお嫁に行ってほしいよ。」
「……そんな早くから母親を亡くして、なおかつ妹の面倒を見てたなんて……おまつさん、苦労したのですね。ならばおまつさんも幸せにならないと。」
僕はほろりとしてしまった。意外かもしれないが、僕は涙もろい。
「なっ……!べ、別にあたしなんか!」
「え?でも源左衛門さんのこと好きなんでしょ?」
「そ、そうよ!だから負けないからね!」
やっぱりそこへ戻るのか、とほほ。
「おまつさん、材料じゃなく、料理を持参した方がポイント……点数が高いと思いますよ。」
アドバイスしたつもりだが、地雷を踏んでしまったらしい。
「余計なお世話よっ!」
ピシャンと派手な音を立てて、おまつさんは帰っていった。やれやれ、こちらの誤解もなかなか解けないようだ。
後で、八百屋に行ってお梅ちゃんに会ってこようかな。美咲に似ているからか、なんとなく会ってほっとしたい。
「さて、茄子の味噌汁でも作るか。」
台所に向き直った時、隅にあるものが置いてあることに気づいた。
「源左衛門さん、これはなんですか?」
「ああ、女子供でも重たい物を運べる小さい大八車を作ったのだが、小さすぎて売れなかったんだ。捨てるのも手間だからそのまんまそこに置いてあるのさ。」
ミニ台車というわけか。でも、どう見ても現代のキックボードにしか見えない。しかし、これを使えば江戸の町の移動が楽になるかな。
「後で借りていきますね。」
「ああ、構わないが。」
後にこれが、某映画そっくりの展開になるとはこの時僕は思いもよらなかった。
※江戸時代の平均寿命は現代より短かったはずですが、はっきりしていません。これは戸籍制度が現代ほどしっかりしなかったこと、乳幼児の死亡率が現代より圧倒的に高かったため、正確な平均寿命が計算できないなどの理由があります。
ただ、初老の定義がこの時代は40歳過ぎなので、五十代から六十代で大半の人が亡くなっていたのではないかと考察されます。とはいえ、葛飾北斎(87歳没)などの高齢者もちゃんといました。
うう、この定義だと作者も老人だ(吐血)
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