第15話 火事ダメ、絶対

 二日目の朝。僕は竈でご飯炊きに苦戦していた。炊飯器なんて無いから当然なのだが、やはり大変だ。火吹き竹って肺活量が要るなあ。

「ぜえ、ぜえ。」

「ほらほら、吹かねえと炊けねえぞ。」

「は、はい。」

『プゥーッ』

 これって、扇いでも変わらないんじゃね?どっかに団扇無いかな?って、昨日焼き茄子を作ったからあるはず……あったあった。これで楽にでき……。

そう思って扇いだ瞬間、灰が一面に舞い上がり、咳き込んでしまった。

「ぶはっ!?げほげほげほっ!」

「おいおい、何やってんでい。」

 そっか、火吹き竹に比べて団扇だと風の面積が大きい。竈には薪が燃えた灰があるから一面に舞い上がるのか。

「横着しねえで、吹け。それに火事になったら捕まるぞ。」

「確か、八百屋お七も放火で火あぶりになったんでしたっけ。」

「火付けなら火あぶりだが、うっかりボヤでも1ヶ月くらいの押込になるぞ。」

「押込?」

「牢屋にぶちこまれるってことさ。」

「……うわ。」

 これで二人とも牢にぶち込められたら充電がますます遅れる。ここまで聞かされたら、素直に火吹き竹を吹くか。

『プゥーッ』

 ううう、きつい。つくづく炊飯器って偉大!でも、それが出るのは昭和40年代くらいだ。ってことは200年近く人々はこれで炊いてたのか。地味に昔の人は苦労しているな。

 そうして悪戦苦闘はしたが、どうにか炊くことができた。歴女の姉から鍋で炊く方法を叩き込まれていたのが幸いした。江戸時代の料理レシピも教われば良かったなあ。

 で、炊きたてご飯と漬物と味噌汁か。具材はどうしよう。

 と、考えてるとまたも戸が勢い良く開いた。

「源さんっ!今日の差し入れよっ!はい!茄子っ!それから瓜の漬物っ!」

 まあ、この人がいるから、ある意味調達は楽だな。でも、おまつさんも気があるならば、もうちょっと、おしとやかさや、健気さアピールした方がいいと思うのだけど。


 ※第2話でも書きましたが、火事に対する対策は様々に講じられていました。処罰の内容もまた然りです。

 本文にもあった通り、付け火(放火)は殺人並みの重罪であり、火あぶりの刑に処されます。ちなみに恋しい人に会いたい一心で放火の罪を犯した八百屋お七の話は、源左衛門さんの時代の約90年前の出来事です。

15才以下は放火でも火あぶりを免れるため、同情的なお上が『そなたは14才であったな。』と誘導しようとしますが、お七は正直に『丙午ひのえうまの生まれ』と答えてしまい、15才以上とわかってしまっため、火あぶりになるくだりは有名ですが、史実にはそのようなやり取りの記録は無いため、創作と言われています。

 付け火が重罪なのに対して失火の場合は、『誰にでもあり得ることだ』とのことで、付け火よりは処分は軽いものでした。

 処罰は押込と呼ばれる禁固刑であり、被害の程度により10日、20日、30日と期間が変わりました。ただ、将軍御成日(外出日)に失火すると罪が重くなったようです。

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