第17話 やべ、ヒーローになっちゃった

 源左衛門さんから借りたミニ大八車というか、キックボードは人が乗っても耐えられる頑丈な作りであった。確かに荷物運搬車として作られたから頑丈なのだろう。

 源左衛門さんからはおまつさんの八百屋の場所を教えてもらって、キックボードを蹴り出す。うん、なかなかいいスピードだ。人にぶつからないようにすれば、移動も楽かもしれない。お梅ちゃんにも見せて自慢しようっと。


「なんだありゃ?」

「早ええな。」

 回りも驚いてる。そうだ、僕がこうやってPRすれば、この失敗品と言うべき発明も脚光を浴びるのではないか?飛脚でなくても、速く移動できる夢の道具として売り出せ……。

 そうやって、考え事をしていたのはいけなかった。僕はたむろしているグループの一人にぶつかってしまった。

「ぐおっ!?」

「あ、すみません!怪我はありませんか?」

 そう呼び掛けて気がつく。どう見ても与太者と思えるがらの悪い軍団。そして、それに囲まれて困り顔のお梅ちゃん。

「あれ?お梅ちゃん?」

「あ、佑真さん。助けてください。」

「あんだ、てめえ。人の邪魔しやがって。」


 状況から頭をフル回転させると、ならず者の集団がお梅ちゃんに絡んでいたところ、僕がぶつかったようだ。

「嫌がる女の子に絡んでいるのですか。器がちっちゃいですね。」

あっ、思わず本音を言ってしまった。

「あん?辰五郎の兄貴に喧嘩売るとはいい度胸だなあ、あんちゃんよぉ。」

 ありゃ、まずい。でも、お梅ちゃんから注意を引き付けるにはこのまま挑発するしかない。

「辰五郎?なんか、いかにもがらの悪そうな名前だなあ。」

「なんだかわかんねえが、バカにしているのはわかった。」

 うーん、脳ミソが筋肉だな、こいつ。

「バカ?嫌がる女の子に絡むバカで間違いないだろ?」

「てんめえ!」

 辰五郎と呼ばれたリーダー格の男が殴りかかってきたが、僕は避ける。帰宅部だけど、反射神経だけはいいんだよね、僕。

 そして、お梅ちゃんから引き離すためには僕が移動すべしっ!キックボードを使い、逃げ始める!僕、帰宅部だけど逃げ足も早いんだっ!

「待てぇ!」

 奴等が追いかけてきた。どうすっかな。逃げながら考える。腕力は無いから頭脳プレイしかない。……あれ、この匂いは?多分近くにいるな。匂いからして恐らくはこの先の十字路の右側だ!よし!

 僕はキックボードを更に蹴り、スピードを上げて十字路の右側を確認した上で敢えて止まる。

 辰五郎達はそのまま勢い良く追いかけてくる。

 まだだ、ギリギリまで引き付けて……よし!蹴りだそう!

「へっ!ここまでおーいでっ!」

「待ちやがれぇ!」

「うあっ!危ねえっ!」

 出会い頭に右側から来た『桶を担いだ人』と辰五郎達がぶつかった。桶の中身が彼らにかかる。

「うおっ!臭せえ!」

 そう、肥えを回収する業者のおっちゃんとぶつかるよう、仕向けたのだ。辰五郎達は阿鼻叫喚で悶えている。

「いよっ!兄ちゃんかっこいいねえ!」

「辰五郎もざまあみろだ。」

 どうやら辰五郎とやらは嫌われものだったようで、僕へ拍手喝采が送られる。

 キックボードでお梅ちゃんの元へ戻った。

「大丈夫だった?」

「は、はい。ありがとうございます。しつこく絡まれて困ってたので。あの、それ変わってますね。」

「あ、ああ。これ、源左衛門さんの発明だよ。」

「へえ……。」

 お梅ちゃんにお礼言われるのはいい気分だ。美咲に似ているからかな。

 しかし、本当にどっかの映画みたいな展開だな。



「はあ、佑真さん、いろいろ面白い人ですねえ。」

「お?藤兵衛、知ってるのか?」

「ええ、戯作者の平賀源左衛門の甥だそうですよ。」

「へえ……面白い子だねえ。」

「あの佑真さんはもしかしたら…いや、それよりも辰五郎を敵に回したから、これから厄介かもしれませんね。」



 ※「火事と喧嘩は江戸の花」と例えられるくらい、気の早い江戸っ子は喧嘩が多かったようです。

 浮世絵で湯屋での女同士のキャットファイトが描かれているくらいですから(『時世粧年中行事之内 競細腰柳風呂』落合芳幾 画)、いかに多かったか伺えます。

 江戸時代の乱闘には火消しと力士の「め組の乱闘」が有名で、歌舞伎の演目にもなっています。

 ちなみに子供の喧嘩は遊びの一環であるため、親はある程度黙認してました。その喧嘩の種類ですが「石合戦」というのがありました。

 雪合戦じゃなく、石合戦。雪玉ではなく石ころを投げあう。そう言えば、徳川家康の幼少期エピソードの中に、庶民の子供達の石合戦を見て、数が少ない方が勝つと当てたものがありました。

 戦国&江戸の子供、ワイルド過ぎます。

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