第30話 久しぶりの平成……あれ?

 とりあえず、過激派が自損事故起こしていると警察にタレコミして、どうにか帰宅した。

 そのうち、意識を戻した過激派の供述によって、博士も警察から事情を聞かれるのだろう。おもちゃの偽物とはいえ、爆弾を作って渡したのだし、なんらかのお咎めがあるはずだ。

 ま、ひき殺されなかっただけましなのかな。


 疲れたとはいえ、タイムマシンのおかげで時間はまだ7時過ぎだ。江戸にいたのがトータルで1ヶ月だから、我が家がずいぶん久しぶりに思える。


 歴史が何か変わったのかどうか、気になった僕は家にあるタブレットを立ち上げて、検索をかけてみた。まずは改めて平賀源内を見てみよう。

『男色家だったため、生涯独身であり…』

 そっか!やたらと源左衛門さんがゲイだと誤解されていたのは、そのためか!

 差別などバリバリの江戸時代、身内にゲイがいれば、親類ならば同類ではないかと疑われるだろう。そこへ目立つ格好の僕が現れたから尚更だ。

 僕はさらに読み進めた時、スクロールする手が止まった。

「え……?平賀源内って獄死しているの?」

 表示されたフリー百科事典には、勘違いから人を殺めてしまい、投獄中に病死したとあった。日付は僕のいた時から三年後だ。子供の頃に読んだ歴史マンガの平賀源内は、エレキテルを将軍にお披露目したところで終わっていたのはそのためか。

「源左衛門さん、巻き込まれてないか心配だな。」

 僕は次に源左衛門さんの名前を検索にかけてみた。無名だったが何かあるか…。

「あれ?ページができている。」

 博士から名前を聞くまでは全く知らなかったから、無名だったはずだ。

 なのに、この百科事典にページができているということは、それなりに歴史に名を残したということだ。

『平賀源内の甥であり、彼もまた発明や戯作、春画など多才であった。代表作は『天狗八百八町珍道中』である。江戸に降りてきた天狗の珍道中をコミカルに描いており、江戸中期の傑作の一つである。』

 なるほど、あの出来事を本当に戯作にしてヒットさせたのだな。僕、源左衛門さんの役に立てたのだな。こんな改変ならば大丈夫だろう、ホッとしてタブレットを閉じた途端、スマホが鳴り出した。ディスプレイには美咲とある!僕は慌ててとる。

「もしもし?」

「佑真君?今、博士ひろし叔父さんの家にいるけど、一緒に夕飯食べない?」

 聞き慣れた、けど随分久しぶりに聞く声。僕も会いたい。

「いいよ、今日は両親は遅いし、姉ちゃんもデートだし。ところで博士ひろし叔父さんって誰?」

「ええ?何を言ってるのよ。平賀博士ひろし叔父さんよ。佑真の隣の家よ。お母さんからおかずを渡されて、ちゃんと食べさせなさいってお使い頼まれて。唐揚げと肉じゃがなんだけど、二人じゃ食べきれないし。」

 唐揚げ?肉じゃが?久しぶりのお肉だ!やった!……え?あれ?お、叔父さん?!

「え?美咲って平賀博士の親戚だったの?」

「そうよ?今さら何を言ってるの?」

 ……少なくとも、そんな話はタイムトラベル前はお互いから一言も聞いてなかった。夕飯を差し入れするくらい仲の良い親戚ならば、幼いころから平賀家に出入りしている僕が聞いていないのは不自然だ。

「わかった、制服を着替えてから行くから待ってて。」

 電話を切り、僕は考えた。そういえば、お梅ちゃんは美咲に似ていた。そのお姉さんのおまつさんと源左衛門さんは夫婦になった。

 途中の家系図はわからないが、僕が江戸時代に干渉して何かが変わってしまったのだろう。人が消滅というバッドエンドではないが、あの美咲と博士が親戚……。ま、まさか顔が博士みたくなっていないよな?

 頭を抱えながら、隣に行くと表で美咲が待っていた。

「あ、来た来た。佑真君、遅いから迎えに行こうかと思って。」

 そこにはタイムトラベル前と同じ笑顔の美咲がいた。良かった、顔は変わっていない。

「美咲……君は変わらないね。」

「何言ってるのよ?」

 ほっとした、とにかく博士そっくりになっているバッドエンドは回避したようだ。

「じゃ、唐揚げご馳走になるかな。」

 そう言って二人で家に入ろうかと思ったその時。

「大変だ!佑真!」


 唐突に博士が玄関から飛び出して来たので慌てて僕らは慌てて飛び退いた。な、なんだ?何があった?


「なんですか、博士。また過激派ですか?」

「未来へ付き合ってくれ!」

「は?」

「君の未来がヤバいんだよ! 」

「ヤバいって、博士、バットの充電は時間がかかるのでは?」

「そんなもん、とっくに改造したわい!」

 そういうとバッドの上部を開けて、ペットボトルの水を流し込んだ。あれ?そんな作りだったっけ?

「水を水素に変換してエネルギーになるようにした。これでどの時代でも充電問題は解決だ!」

「で、でも140キロのものは……?」

「それも改造済みだ。中に金属の玉を仕込み、振ることによって内部のスイッチが押される。誤作動防止のため、それを百回繰り返すことで時空間移動できる。」

 つまり、素振り百回か。いつの間に改造してたのだ。いや、きっとタイムマシン使って時間を使って、じっくりと改造したな。

「既に99回振ってあるからあと一振りですぐに行ける。2年後の世界へ行くぞ!美咲君、事情は後で話すから佑真を借りるぞ!」


 そういうと博士は僕の服を掴み、バットを振った。その瞬間、眩いエネルギーフィールドが発生して僕らは再びタイムトラベルをした。

 そ、そんな、せっかく帰ってきたのにまたタイムトラベルなんて。……唐揚げ、食べたかったのに。


 ~了~


 参考文献及びホームページ(順不同、URL省略)

 江戸campus

 江戸ガイド

 株式会社伊勢半本店

 クリナップ

 農畜産業振興機構

 フジクリーン工業株式会社

 Wikipedia

 日本食文化の醤油を知る(北伊醤油の関連コンテンツ)

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「一日江戸人」杉浦日向子 新潮文庫

「江戸を愛して愛されて」杉浦日向子 河出書房新社

「そうだったのか江戸時代」油井宏子 柏書房

 立命館大学社会論理集 2013年5月

「江戸八百八町に骨が舞う」谷畑美帆 吉川弘文館

「江戸学事典」 弘文堂

「江戸しぐさの正体」原田実 星海社新書 別冊歴史読本「江戸の危機管理」新人物往来社

「ヴィジュアル百科江戸事情 第一巻生活編」 NHKデータ情報部編

「図説江戸4 江戸庶民の衣食住」 監修 竹内誠(江戸東京博物館館長) 学研

「図説江戸5 江戸庶民の娯楽」 監修 竹内誠(江戸東京博物館館長) 学研


 東京消防庁 消防博物館


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バットを振ったら、そこは江戸だった 達見ゆう @tatsumi-12

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