第12話 屋台は江戸のファーストフード

 さて、次は天ぷらだ。ここも椅子は無いから立ち食い式のようだ。ごま油で揚げているらしく、辺りは香ばしいゴマの匂いが立ち込める。

「はい、らっしゃい。」

 皿の上には串に刺さった状態の天ぷらが並んでいる。天ぷらの衣は見た目が白いから、卵がない衣で揚げたのだろう。まあ、卵は高級品だからね。

 ざっと見ると、穴子、イカ、エビ、アオヤギの魚介類。これはさっきの寿司と被るけど江戸前近海で取れる魚のみだからだな。冷蔵庫も氷も無いから遠くの魚は運べないし。

 野菜はというと、夏野菜の茄子にカボチャがある。もちろんトマトやピーマンは無いし、温室栽培もないから季節外れの野菜もない。。

 そしてやはり、というか肉は無い。…仕方ないけどさ。

 そして、他の客の様子を見ると、大根おろしが入っている天つゆの大きな器に突っ込んでから食べている。

 大阪の串カツみたいな感じかな。

「よし、エビとアオヤギにイカをください。」

「あいよっ。」

 先ほどの寿司に続き、ようやく動物性たんぱく質にありつける。いただきます!

 大根おろしがごま油のしつこさを中和してなかなか美味しい。

「ちょっとごま油が強いけど、美味しい。これっていくらなんですか?」

「どれでも一本四文だよ。」

 えーと、物価がわからない。

「源左衛門さん、どのくらいの値段なんですか?」

「湯屋が一回十文、蕎麦一杯で十六文だ。」

 んー、現代のかけそばが三百円で銭湯が420円くらいだったから…あれ?物価が逆転してるな。おおざっぱに考えて7、80円くらいとすればホントに大阪の串カツ並みだ。

「で、これも一、二本をささっと食べて去るのが粋なんですか。」

「あたぼうよ。」

 僕、江戸っ子だと自負していたけど、だんだん自信が無くなってきた。


 ※江戸時代の三大屋台として「蕎麦」、「鮨」、「天ぷら」が上げられます。天ぷらの由来はご存知の通りポルトガルの「テンペラ」が語源です(諸説あり)。江戸時代はファーストフードとして安く売られていました。

 とはいえ、現代のような火力は無かったので、じっくり揚げており、そのため油が多かったため、たれに大根おろしを入れたものに付けて食べていました。中には衣に味を付けておいてそのまま食べるスタイルもありました。揚げ油にごま油が使われていたのは、鮮度が落ちた魚介類の臭みを消す役割もありました。

 ちなみに今回は野菜の天ぷらも出しましたが、江戸評論家の故・杉浦日向子さんは「野菜の天ぷらは無かった」と言う説を展開しています。少なくとも魚介類は揚げていたのは確かです。

 高級料理へ変換するのは幕末になってからです。衣に卵黄を混ぜた「金ぷら」という商品が売り出されました。

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