第16話 蟹蟹蟹世
よくよく考えたら庶民的な食材が多いよなぁと不満に思ったのが間違いの元。
「俺があいつで」「ぷくぷくぷく」 「あいつが俺?」「ぷくぷくぷく」
そう俺たちは入れ替わった。調理する直前。
地球は大丈夫だが、今日が俺の最後の日だっ!
目の前で蟹が! 切り刻まれていく! いや……それは俺なんだ!
前代未聞のスプラッタームービー。『蟹の名は。』近日公開。
========プツン========
俺はテレビを消した。最近の映画はなんでもあり。不思議なのは誰が見るんだ? こんな映画。世の中は理解し難いことばかり。見れば電子タバコの充電がまだすんでいない。悶々とする。なんかもう……はぁ、ため息がでた。
しかしそうだな。よくよく考えてみたら高級食材がまったくでないってのは寂しい話だ。妄想だからもっと思い切ったものが食いたいが、馴染みのない食材には想像が及ばないのが痛いところ。だがしかし……
ズワイガニは無理でもワタリガニならいいんじゃないのか? 因みにタラバガニは本当はヤドカリの仲間って話は聞き飽きた。能書き言わずにくえっちゅぅねん。
ワタリガニの旬は二回ある。
メスの旬は12月から5月いっぱい。
オスの旬が7月から10月いっぱい。
夏のオスの身は
やはりワタリガニを食うなら赤い内子(腹中の卵)が一番の楽しみだ。
あぁ妄想の中の妄想でよだれがでてくる。
========チョキン========
ちがうちがうっ! 現実逃避するな。おまえ……って俺か。俺はあまりの恐怖で現実を忘れている。甲殻類に痛点がないってのは迷信だからなっ! ぎゃぁああ、二つ目切りやがったな多恵ちゃんっ! 俺の本体はぷくぷく言うだけで会話にならない。そんな俺を幼児語で語り掛ける甘えんぼさんって顔で見るなっ! 多恵ちゃんっ!
ぎゃぁあ。茹でるとか蒸すのはやめてくれっ! 焼くのも駄目!
========プツン========
ワタリガニの最高のものは栗なんて呼ばれてる。中身がパンパンにつまってさ。
メスの身も捨てたもんじゃない。内子を楽しんでる合間合間に甘みを感じて日本酒をきゅーーーと。あぁ、でもこれじゃあ料理とは呼べないな。そのまま酒のつまみにしているだけだ。うぅ~ん。でもワタリガニをわざわざパスタや春巻きの具にしてもなぁ。まさに旬真っ盛りなんだから、小細工しないで味わいたいよね。
========チョキン========
状況考えろやこの馬鹿っ! 小細工しろっ! 些細なヒントを手掛かりに今の状況を打破せんかいっ! 時間がない。なんかないか? 中学の時に知らない女の人にもらったブレスレットとか、携帯に残ったメールのデータとかよぉ。時間内に入れ替わって元に戻らないと確実に死ぬぞ? 蟹の胴体を生で食うやつはいない。瞬殺だ。
========プツン========
あれ? そういえば多恵ちゃんはどこだろう? 多恵ちゃ~ん。
あら? どうしたの? 日本酒を含んでくっちゅくっちゅくっちゅして?
ど・どうしたんだ? 多恵ちゃん。そのくっちゅくっちゅしたものをどうするの?
========チョキン========
ストーリーの前半、なんの伏線も張ってないのに気づいたか多恵ちゃん。
でも……ああああああああ最悪の事態。違うよ、多恵ちゃん。
========チョキン========
========プツン========
========チョキン========
========プツン========
「口噛み酒は、日本酒をくっちゅくっちゅしたものじゃなぁぁぁぁい!!!」
こうして初めての高級食材、蟹は無事に茹で上がった。
初キスは日本酒の味がしたよ、多恵ちゃんっ!
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