第24話 白い巨峰
「芝谷教授の
芝谷
医者医者ゾロゾロ医者ゾロ医者ゾロ婦長医者ゾロ医者医者医者
医者ゾロゾロ医者医者ゾロ医者医者ゾロゾロ主任ナース医者医者
医者ゾロ臨床医ナース医者スナイパー医者ゾロ研修医研修医研修医
研修医ゾロゾロ研修医ナース研修医ナースナースナースナースおたんこ
大都会の聖域、大学病院は本来のあるべき姿とは裏腹に旧態依然の権力構造を拭えきれず、患者のための医療という使命を忘れていた。
「先生っ! どうかよろしくお願いします」
「わたし、失敗しないので。でも成功しても失敗してもお金はもらうけどね」
権威と専門知識の壁に阻まれた密室は司法の介入さえ阻害する。
誰も声をあげられぬ淀みのなかで、歪んだ正義だけが成長していく。
そして白い巨峰における密室の中の密室で事件は起こった。
芝谷教授「状態はどうかね?」
麻酔医「タルタル。マヨ134の85、タマネギ67でピクルス」
芝谷教授「正常値のようだね。では始めよう。 ナスっ!」
心臓バイパス手術ほど難易度の高いものではない。普段の教授なら鼻歌を歌いながらでも正常におこなえる事案だった。
芝谷教授「汗っ」ふきふき「ナスっ!」パシッ「コッペパン……おい早くしろ」
唯一、新人ナースの手際が少し悪かったが、それも取り立てて問題はなかった。
腹腔鏡手術ではないのだ。手渡しが遅れたところでなにも起こるはずがない。
しかし事態は急変する。
麻酔医「大変です。味が悪化しています」
芝谷教授「なに? すぐにB型の準備だ」
ナース「はいっ!」
トマトジュースがセットされビニール製の点滴チューブから新鮮な赤い液体が滑るように注入された。
ナース「駄目です。味が戻りません」
芝谷教授「原因はレモン果汁か? それともオリーブオイルか?」
麻酔医「普段通りです。ケッパー、パセリ、チャイブいずれも問題ありません」
――ピコ~ン――ピコ~ン――ピコ~ン――――ピーーーーーーーー。
芝谷教授「な、なんんてことだぁぁぁぁあああ」
※
【僕は一冊の本だ。】
論より証拠の名探偵シリーズの主人公。
「犯人はおまえだっ!」で事件は終わる。
だがときどき、挟まれた
やれやれ、やっかいな事件になっていないといいのだが……
※
「で、単純なパングラタンだったと?」
「ああ、ナスとちぎったコッペパンを具にして、トマトソースとチーズで味付けしてタルタルソースをかけて……あとは、オーブンに入れるだけだった」
芝谷教授の目はうつろで、その手はわなわなと震えている。
「食材はすべて普段通りだったのですか?」
「貴様、わたしが業者と癒着しているとでもいうのか!」
「まあまあ、そう興奮なさらずに、現場にみなさんを集めてください」
・芝谷教授
・助手
・麻酔医
・ナースA
・ナースB
・ナースC
・新人ナース多恵ちゃん
・スナイパー
・警備員
「これで全員ですね。これだけの目が集中していたのにもかかわらず、事件は起こった。まったく不可解です。そしてこれは事前に細工されたものではない。異変はその真っただ中で……それがこの事件のポイントです。なんでもいい。そのときのことを思い出してください。なにかおかしなことはなかったですか?」
「つ、つめたかった」
皆が沈黙する中、ナースBが唐突に吐き出すようにそう言った。
「冷たかった? それはどういう……」
「パニックになってしまって、本当はさわってはいけないんですけど、慌てて素手でさわってしまったんです。そしたら冷たかった。とても冷たかったんです」
「なるほど」
僕は指を一本突き刺した。温度を確かめるためではない。事件から数時間、ナースが言う痕跡は残っているはずがない。だが……ぺろり。
「犯人はおまえだっ!」
僕はまっすぐにスナイパーを指さした。
「なっ! なんだいきなり。なにを根拠にっ!」
「さわやかな酸味、独特の甘み、
「ぐっ!」
「凶器に使われたのは液体窒素で凍らされた巨峰だ。味をみればすぐわかる。ライフルで放たれた白い巨峰のスピードを肉眼では感知できない。料理が急速に冷たくなったのもそれが原因。そして……ここでライフルを所持しているのはおまえだけだ」
「ふふ、さすがは名探偵を気取るだけはあるな。こうなればみんなまとめて……」
スナイパーはなにか赤いものをライフルに装填した。
(あ、あれは? まさか、赤い弾丸!?)
しかし考えるより先に、僕の手刀がスナイパーからライフルを叩き落としていた。
「これ以上、味を重ねるな」
「うぉぉ許せなかったんだ。ナスとパンのグラタンで2800円も暴利をむさぼる、芝谷が許せなかったんだぁぁぁ」
警備員に取り押さえられたスナイパーはその場で泣き崩れた。
こうして事件は解決した。
ほっとして電子タバコの水蒸気を吐きだし、僕はナースAにこっぴどく叱られた。
そして……解決できていない謎が、この事件には残る。
スナイパーの
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