第19話 パリパリ鶏皮の焼きそば



 むか~しむかし、あるところに年老いたたかしが住んでおった。


 しんしんと雪のふる夜。とんとんっとんとんっ戸口をかすかに叩く音がする。

 こんな夜中にだれじゃろう? 怪訝に思った宗はそっと表の戸を開けました。


「マッチはいかがですか?」

 おどろいたことにそこには赤ずきんを被った、それはそれは美しい娘が立っておりました。


「いや……最近、電子タバコに変えたんでライターもいらないんですよ」

 どうやらN〇Kの集金人や宗教の勧誘ではないようなのでほっと胸をなでおろし、そしてこんな雪の夜に泊る所がないという娘を不憫に思った宗は、一晩泊めてあげることにしたのでした。


 翌朝も雪はやみません。次の日もその次の日も。

 ふたりは偶然に一つ屋根の下に住むことになった足軽物語の主人公のように絶妙の山あり谷ありで過ごすのでした。


「どうか鶏皮とりかわを買ってきてください」

 あるとき、思わぬ長逗留ながとうりゅうのお礼がしたいと娘が言いました。


「お安い御用だ 」

 宗はふたつ返事で雪の中を買い出しに行きます。


「けっして中を覗かないで下さい」

 宗が買ってきた鶏皮を受け取ると、娘は何度も何度もそれだけは念をおし、台所に消えてゆくのでした。




 ※ レシピ


 〇鶏皮に大量の塩を揉みこみ、ぬめりと血液などを取り水洗い。

 〇包丁で黄色っぽい脂肪や毛羽立ちを大胆にカット。(マジ大胆っ!)

 〇もう一度、大量の塩でこすり揉みこみ、水洗い。


 〇フライパンに皮目を下にして並べ、白ワインを注ぎふたをして蒸し焼き。

 〇じっくり火を通し、脂が十分出てきたらふたを取りアルコールを飛ばす。

 〇鶏皮から出た脂だけでパリパリになるまでひっくり返しながら揚げます。


 〇鶏皮をキッチンペーパーに取って油を切り、軽く塩コショウ。


【今日のポイント】

 鶏油ちーゆは下処理を十分にしたので捨てるのはもったいない。ですが、旨味と鶏臭さとの兼ね合いになりますので、フライパンに残す量は好みで加減してください。



 〇同じフライパンに鍋肌なべはだを洗うように白ワインを注ぎ、乾燥バジルを加える。

 〇ひと煮立ちしたら、昆布茶で味を決める。

 〇蒸し麺を入れ、ほぐしながら炒める。

 〇油分の加減を見てオリーブオイルを足し、さらに炒める。

 〇皿に盛って、細かくカットしたパリパリの鳥皮をのせて完成。





「あれほどお願いしたのに、覗いてしまったのですね」

「しょうがなかったんじゃ。レシピを掲載しないわけにはいかなかったんじゃ 」

 娘は悲しそうな顔をして、首をそそと振る。


「姿を見られたからには、私は月に帰らねばなりません」

「なんでじゃ?」

「ああ、もうカボチャの馬車が迎えに来たようです」

「どぉ~してじゃ?」


 お礼の品の玉手箱だけを残して、娘は羽衣はごろもひるがえし天空に舞い上がりました。七人の小人たちがそれに続きます。



 

 宗はながらく悲しげに雪降るだけの空を眺めていましたが、仕方がないとあきらめ玉手箱を開けました。中にはダイエットコークが入っていました。

 ジャンクな鶏皮のフリット焼きそばに、雪割りのダイエットコークはとても相性が良さそうです。



 お腹いっぱいになった宗は、隣にいる多恵ちゃんの手をそっと握ります。

 多恵ちゃんはずっと傍にいました。理想の彼女とは言葉をひとつ間違えただけで、見るなのタブーを犯しただけで、いなくなるようなそんな存在ではありません。

 カリギュラ効果(禁止されるほどやってみたくなる心理現象)を試したりしない。



 多恵ちゃんはその優しい目で(15日は確定申告の最終日で時間なかったのね)と、まるで母親のようにすべてをわかっている風なのでした。


 メルヘン♪ メルヘン♪


 



 



 

 




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