第3話 モロヘイヤのお粥
きゅるるるっるるるるるるうるう。
うぅ。おなかが痛い。
多恵ちゃん……牡蠣は一週間も放置しちゃだめだ。幾ら日本の冷蔵庫が優秀でも、食材にはある程度の特性ってもんがある。って、なんで妄想なのに腹が痛いんだ? イテテッ。
やっぱあれだな。基本的に俺はドジっこが好きだから妄想もこうなるんだな。
二日目でもう暗礁に乗り上げたか。俺の人生ってこんなんばっか。
最初の就職先が考えりゃ一番良かったんだよなぁ。社長いい人だった。怒りっぽいけど優しい人で。それが些細なことで喧嘩して飛び出しちゃったけど……あの人ならきちんと謝ったら許してくれたはずだ。
どんっ!
あ。 多恵ちゃん!
なに? しょんぼりしてないでこれ食べろ? 無理無理。
けっして君のせいではないけれど、なぜだかとってもお腹が痛いんだ。
え? そんなときは空腹よりちょびっとだけ食べるほうが回復する?
そのわりにどんぶりに満杯なんだけど……わかったよ。これは、おかゆ?
※ 食材&レシピ
鍋に洗米と水を入れ強火にかけます。(人生の失敗は大目に、お水も多めに)
7倍の水で炊くと七分がゆ。さらりとしたおかゆ♪ さらりとしたおかゆ♪
沸いたら中火。鍋のふたを少しずらして、吹きこぼれないように30分ほど。
炊き上がるまで、多恵ちゃんはシャドーボクシングをしています。
モロヘイヤを葉と
茎が柔らかく煮えたら、葉を入れて一分で火を止める。塩加減は人生経験。
【注意】市販のモロヘイヤは安心ですが、家庭菜園などで育てられた成熟した茎には毒が含まれますので危険です。
ながっ! ただのおかゆなのにレシピながっ! それと注意事項こわい。
まあせっかくだから頂くか。でも単なる草が入ったおかゆでしょ? 一草粥。
※ 実食
さらり。ひとひらの雪。あれ? なんでなんで? とけちゃった。
ご飯から炊く粥が『
一草なのに明確に複雑な滋味を感じる。トイレの花子さんとか、光るベートーベンの目とか、踊る人体標本とか、学校七不思議も七草がゆも、七つもいらないんじゃね? こめかみに一発だけでじゅうぶんだ。
塩加減、絶妙。一流の料理人は酔客が盃を
あくまでも薄味。モロヘイヤの良いところを殺さない、だけどもけして物足りなくはない。なぜこんな神業ができるのだ? 妄想だからか? そうなのか?
俺は多恵ちゃんを見た。
多恵ちゃんはゆっくり首を振り、人差し指をくちびるに置いた。
秘密? 黙れ? いや違う。そうか!
一分で火を止める。余熱を信頼し、すべてをゆだねる勇気。
お熱いのがお好き。だとしてもそれがいつも正しいとは限らない。
つきっきりで鍋を見つめ、モロヘイヤの最高のパフォーマンスが発揮される温度で火を入れて、さらにはおかゆが舌のうえで溶けることまで計算しつくした…………
俺だけのための、温度とタイミング!
ありがとう、多恵ちゃん。いやいやいや、今日はこんなだからお酒はいいよ。
えっ卵酒? あっ体調悪いのはもしかして、牡蠣のせいじゃなく風邪だったのか?
疑ってごめんよ多恵ちゃん。でも卵酒はちょっと苦手かも……。
うぐっうぐっ。あれ? 苦手なはずだけど、なんだかとってもスパイシー。
え? 一種類でシナモン・クローブ・ナツメグ・三種の香りがするから、
名づけて、オールスパイス!
きのうの残り物? バレーボールの一人時間差攻撃だね、多恵ちゃんっ!
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