第28話 エビチリ・オールスターズ
アクアビットは船で赤道を跨いだが、ジェット機は一瞬でそれを飛び越えた。
ここはオーストラリア。南半球。だから季節は秋、と言うより、残暑の夏か?
この現実は妄想に近い。相手は泥酔してたのだから責任能力は考慮されるべきで、ポーカーでの賭け金を回収するつもりもない。会社ごともらっても手に余るだけ……そもそもあれは壮絶なイカサマだった。
( A・K・Q・J・10 に分裂したのは流石にびっくりしたよ、多恵ちゃん)
だからこれは商店街の福引で特賞を当てたみたいなもので、ベアーズの社長も快くこの馬鹿げたイベントに協力してくれた。
オーストラリアに来たのには理由がある。
日本は遠浅の海も急峻な地形の深海もあり様々な海流が流れ、獲れる魚介の種類は豊富で、築地は世界ナンバーワンの魚市場である。だが、オーストラリアも負けてはいない。シドニー・フィッシュマーケットの取扱い種は、築地に次ぐ世界第二位。
当然、今回のお目当ても集まるわけだ。
ではまず、日本から連れてきたメンバーを紹介しよう。
車エビ
牡丹エビ
甘エビ
ゾウリエビ
ウチワエビ
アカザエビ
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長くなるので、続いてオーストラリアのメンバー紹介。
バナナ海老
キング海老
オーストラリアタイガー
そしてなんといっても、オマール海老。
バナナは甘みがあり、キングは旨味が強く、タイガーはぷりぷりだ。
そしてオマール海老は語る必要もないだろう。身と
続いてお隣のニュージーランドからは名物のクレイフィッシュ(ザリガニ下目)を代表して、レッドロック・ロブスター & パックホース・ロブスター。
まだまだ終わりじゃない。極めつけはニューカレドニアから届いたばかりの、
天使の海老っ! (パラダイス・プローン)
汚染の少ない南半球の海域のかなでも特別の品質管理で育てらた味もクオリテーも最高峰。食品基準に厳しいフランスで称号を授与された、世界で唯一のエビ。
(ストレスのない環境で育った証の長いヒゲが特徴)
さぁて、ここに海老のオールスターが集結した。多恵ちゃん、あとはよろしく。
※ 海老のオールスター エビチリ・アメリケーヌ風
【備考】アメリケーヌ・ソースとはフランス料理のソースの一種である。エビの殻と香味野菜などを炒めて出汁を加え、それを
海老の頭をかち割り、殻と一緒に炒める。そこにアクアビットを入れてフランベ、フォン・ド・ポワソン(魚の出汁)、長ネギの青い部分、ショウガを入れて煮込んでから徹底的に濾して、海老ミソとホールトマトを潰し入れてさらに煮詰める。
(煮詰めてから、塩、砂糖、隠し味程度の醤油で味を決める)
エビの背ワタを取り、小型はそのまま、大型の海老は一口大に切りそろえる。
酒、塩、片栗粉を揉みこみ10分ほど置いてから水洗い。
フライパンにたっぷりのラー油を熱し、ニンニクと生姜を炒め、香りが出てきたら長ねぎのみじん切り、
海老肉を入れ絡め、火が通ったらアメリケーヌ・ソースを注いで強火で煮る。
水溶き片栗粉でとろみをつけ、仕上げにごま油とラー油をかけて完成。
※実食
夢のようだよ。子供が見る夢だよこんなの。
旨味と甘みとアミノ酸の複雑骨折。海老の身も爪もミソも、すべてが洪水となって押し寄せてくる。沢山の種類の海老をいっぺんに頬張る、快感。
付け合わせには、アイデアが閃いた。南半球ならパンノキだ(パンの木)
15少年漂流記にでてくる、無人島に漂着した少年達が食べたあれ。ロビンソン・クルーソーだって、こいつで生き延びたんだ。
小説を読んだ子供の頃は、本当にパンが木に
種の皮をむいて火で炙ればビスケット状になって、でんぷん質のホクホクはまるで甘みのない栗かサツマイモのよう。気分は、CMの、オン・ザ・リッツ。
飲み物はせっかくだから、海賊気どりでラム酒にしよう。ああ、エアーズロックに日が沈む。
こうして
キングの隣にはいつもクイーン……だからトランプの方じゃない、多恵ちゃんっ!
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