第11話 特攻のクリームソーダ


 畜生っ! 飲み物なしで分厚いサンドイッチ食べたので喉がカラカラだ。

 水分という水分は奪われ、口中の奥のほうまでネバネバとしてやがる。

 だけど僕は叫ばなきゃならない「犯人はおまえだっ!」ってね。




 ※




 僕は一冊の本だ。


 名探偵のおっさんが異世界に飛ばされ、気づけば8歳程度の子供のからだ。

 そこはエルフやらホビットがいる世界で、なんだかんだと事件があり、それをなんだかんだで現世の探偵の経験でくぐりぬけて……ってのが大まかなストーリー。

 最後に「犯人はおまえだっ!」で終わる。


 順当に行けば、ラストまでは6時間ほど、速読なら20分で終わる内容なのだが、最近の読者は耐性が余りにもない。10分読んだらアニメを見る。お菓子を食べる。挙句の果てには二日や三日は平気で放置する。

 それだけなら時間を浪費するだけなのだが、困ったことにそれだけでは済まない。

 几帳面な奴で毎回毎回、しおりを差し込みやがる。本にはスピンはついていない。

 その無造作に差し込まれる栞がやっかいで、嵐の栞を差し込まれたらストーリー上で嵐が起こり、本来は楽に解決できる事件が大いに複雑になる。

 今回は王家の秘宝を探して飛行船で飛んでいる途中、機械仕掛けの竜に襲われた。ベストセラーの宣伝が入った栞らしい。(電撃文庫)

 とにもかくにも、「犯人はおまえだっ!」でないと、この物語は終わらない。





 ※




≪ギァァァァァ、ギィギィ、ギャァン、ギャバーーーーー≫

 船がきしむ音なのか鳴き声なのか判別がつかない。


 かじと船体にその鋭い爪をひっかけた金属の竜は激しく船を揺さぶる。

 


 ホビットA「だからあんたと旅するのは嫌なんだ。」

 ホビットB「俺たちゃただの農民だ。こんな奴と戦えるわけねぇ」

「そんなこと言ってる場合か! このままならやられるぞ」エルフA

「俺たちが自慢の弓で竜の気を引く、その隙にあんたが倒せっ!」エルフB

「オラが作った聖なるナイフ」AドワーフB「機械の竜も倒せるぞ」



 えらいことになった。ストーリーが変われば、頓死もありえる。

 現世でも異世界でも僕は戦闘なんかやったことがない。

 子供の姿で油断させ、老獪なおっさんの頭脳で生き残ってきたんだ。


 芝谷しばたに省豆しょうご「おまえがやるしかないズラ」


「は? なんでお前ここにいんだよ! えーい! いきゃぁいいんだろ、いきゃぁ」

 覚悟を決めた俺は、機械仕掛けの竜の背中に飛び移る。竜はエルフABが放つ矢にいかってこちらには気づいていない。やれる。やれるぞ!


 僕は竜の首を這いのぼる。

 逆鱗げきりん。あごの下に1枚だけ逆さに生えるとされるうろこ。それが急所だ。

 動きに気づいた竜は激しく首を振る。ここで振り落とされたら、すべてが終わる。僕は歯を食いしばり、渾身の力を込めて聖なるナイフを突き刺した。


(パッキーーーン)

 ナイフはあっけなく折れた。突き刺したのは逆鱗ではなく、かなりマニアックな

USB端子の差し込み口だった。(機械だけにね)




「オラが作った聖なるナイフ」AドワーフB「製造過程で手を抜いた」

「おしまいか!」エルフA「おしまいだ!」エルフB

 ホビットA「だからあんたと旅するのは嫌なんだ。」

 ホビットB「俺たちゃただの農民だ。はじめから勝てるわけがねえ」




 そのときだ。

≪シュワーーーシュワシュワーーーーぶくぶくぶく、ドロドロドロ≫


 あたり一面に、ゆたかな芳香ほうこうが広がり、すべてが白い泡と甘い液体で包まれた。なんだ? 魔法の一種か? ユニークスキル?


≪ギギャァァァllllll≫

 機械仕掛けの竜は雄たけびを上げながら落下していく。その金属のうろこをきしませながら……


「なにがおこったかわからんズラ。でも助かったズラ」芝谷省豆が呆然とつぶやく。





「犯人はおまえだっ!」僕は叫ぶっ!



 戦闘は苦手でも僕のおっさんの頭脳はなにが起こったかをすでに突き止めていた。



 


 えーっとね。確かに初っ端で愚痴は言ったよ。いやいやいや、いつも美味しい料理作ってくれて感謝してるよ。でもさ、あんな分厚いサンドイッチをさ、飲み物なしで8個も食わされた身にもなってくれよ。そりゃ嫌味くらいちょろっとでるじゃない。僕だって悪気があったわけじゃない。それなのに……




 読みかけの本にクリームソーダ 特攻ぶっこむ とはなっ!



 それがてめぇ~のやり方かぁ 多恵ちゃんっ!






 













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