第8話 梅肉入り酢の〆鯖

 妄想にしてもまったくおかしな妄想だった。記憶のない妄想。ドグラ・マグラじゃあるまいし――チャカポコチャカポコの擬音の羅列で読むのをやめたので内容は忘れちまったが――そもそも多恵ちゃんに実体はない。もともと某巨大掲示板の有名な、

A・A(アスキーアート)からなんとなく響きが可愛くてつけた名前で、出身は熊本の設定だったはずだ。なぜなら九州の女性は男性を立ててくれるからなっ! 

 北海道。赤い弾丸。AIロボット。記憶のない俺。精神的にかなりダメージを……



 ことっ

 ことっ


 え? 多恵ちゃん? これは? 


 ちゃららっちゃらー。セロリとぉ、ゆで卵のぬかけぇ~。

 ネコ型ロボット?



 ※ レシピ


 両方とも、ぬか床に一日漬け込めばOK(ゆで卵は殻をむいてからね)


 【注意】

 セロリは匂いが移るので、足し糠するときに少量取り出し、キッチンバットなどに移して別個に漬けましょう。ゆで卵は初心者は固ゆでを長時間。慣れたら黄身が半熟の浅漬けにも挑戦してみてください。


 


 なんともはぁ~しみじみする味だね。ちょっと落ち着いてきたよ。多恵ちゃん。

 これはどうもしばらくやめてたけどお酒が欲しくなる。

                 ドドド

 ドギューーン メギャン ドドッド ババァアン メメタァ ドンっ!

               ドド


 ※ ゴマさばのシッポ酒


 けっしてふぐのひれ酒とは似て非なるものですが、同じお魚です。

 切り取ったシッポを塩水に漬けたのち脱水シートにくるんで冷蔵庫で二日保存。

 よく洗って、五徳のうえに置いた網で弱火でじっくりあぶりましょう。臭みが残らないよう丁寧に。

 焼けたシッポをコップに入れ、熱い日本酒を注げば完成。




 ぷはー最高。ありがとう多恵ちゃん。でもよく鯖のシッポなんてあったね? え? 二日ほど前、省豆しょうごが持ってきてくれた? その時、伝言メモを……


『おいおいw 一緒に住んでる彼女がいるなら紹介しろよ、水臭い。とはいえ、お前が留守だったらせっかくの新鮮なサバが腐るところだった。(赤い弾丸)についてはおおよその調べはついた。どうやらその作成者は女のようだ。その女を探るため、俺はまた地下に潜る。その間は連絡がつかないから、せいぜいイチャイチャしとけw』



 眩暈めまいがしそうだった。やはり、余命宣告された俺の精神は病んでいるのか?

 それともレシピ小説に強引に軌道修正するための神の采配なのか?




 ※ 梅肉入り酢のしめさば


 〇砂糖〆:新鮮な鯖の切り身にたっぷりと砂糖をふって一時間ほど置く。


 〇塩〆:砂糖を洗い水分をふき取り、塩で〆ます。冷蔵庫で二時間以上がお勧め。


 〇すり鉢に梅肉、昆布茶、お酒を入れよくすりつぶし、最後にお酢を加えます。


 〇鯖を梅昆布風味のお酢でしっかり漬け込む。20分程度がお勧め。


 〇身を崩さないように、毛抜きなどで細かい骨を抜きます。


 〇水けをふき取ってラップで包み、で二日間保存。


 〇自然解凍後、薄皮をむいて削ぎ切りで完成。


【厳重注意】

 冷凍の工程はアニサキス(寄生虫)対策なので必ず行いましょう!




 それは俺の混乱を打ち消すほど、鮮烈な味だった。

 自家製の梅干しを漬けている家庭では、梅肉を梅酢にしてもよいでしょう……とは多恵ちゃんの弁。


 〆鯖はつまみとしては最高ランク。ほんらい居酒屋などで頼むものだがこういう、ちょいと工夫されたものは自分で作るしかない。仄かな梅肉の風味がなんとも……


 ん? 梅肉? …………ま、いいか。




 最後は、かち割ったサバの頭で出汁を取った味噌汁で大満足。



 今回は王道だったね、多恵ちゃんっ!





 

 

 


 


 




 

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