第15話 旅のレシピ(後編)

 僕たちの旅は栃木県のとある田舎町を目指している。あいにくと最寄り駅と呼べるものはなかったが、神社を目指すなら大抵は別ルートが用意されている。

 全国にコンビニを遥かに超える八万もの神社があるのは、長い年月、日本人にとりなくてはならない存在として、生活に組み込まれてきたあかしなのだから。

 目についた交番で聞けば案内はスムーズで、比較的離れてはいてもそこには絶えず目指す人がいるのだろう。すぐにとるべき経路を教えてもらえた。

 ついでに……


 のほうが重要だったかもしれない。僕はよくこの手を使う。

「ありがとうございます。ところで、観光客の来ない穴場の……」

 いきなり聞いては失礼だ。あくまでついで。


 質問は順序が大事。いきなり、地元の人しか知らない餃子のお店を教えてくださいなぁんて警察官に聞けばいい顔はされない。人は立場によって態度を変える。

 これは大手マスコミの下請けの下請けの仕事をやった経験から。

 ルポルタージュと言えば聞こえはいいが、要は手の回らない忙しい人間に代わって現地で取材をし、資料を集めてくる使い走りみたいな……それはそんな仕事だった。

 そこに僕の考えは差し込まない。資料や聞き込みの内容をどのように加工するか、どのように独自の視点や分析と解説を加えるのかは上の者やジャーナリストの仕事。

 だがまあ、性には合っていたのだろう。かなり重宝された。重宝したうちには、今は友人でもある芝谷省豆もいる。



 


※ 穴場のお店レシピ(空想) 丸ごとイカ餃子500円


 そこはもともと魚屋さんで、栃木と言えば餃子だと、次男が店内に餃子屋を作ったのがその始まり。なんと具は、新鮮なイカを丸ごと使ったものだという。



 ◎イカをさばいて皮を剥き、胴体、肝、げそ、イカ墨に分ける。


 ◎肝に大量の塩を振って臭みと水分を抜く。後に絞りだす。


 ◎胴体を

  一つは、包丁を垂直にして身をこすり削るようにしてドロドロにする。

  一つは、一センチの角切り。


 ◎げその吸盤の爪(歯)を取り、刻む。


【注意点】具をまとめるつなぎでもある身はすり鉢で擦って滑らかにしましょう。



 材料をボールに入れ(身二種、肝、げそ、アサツキ、塩、コショウ、生姜、醤油)

粘りが出るまでよく揉みこんで、まとまったら皮で包み、焼き上げる。




※ 実食


 なんっ! 餃子のたれにイカ墨が入って真っ黒ですやん。

 片面はパリッと片面はモチモチの皮から飛び出す肝の旨味。

 新鮮なイカの身とげそのコラボレーションがもはや餃子ではないではないか!


 ビールでしょ? ビールしかないよね? え? 多恵ちゃんは焼酎のお湯割り?



 追加でさらに3皿たのみ、餃子と飲み物だけでお腹をさすりながらバスに乗る。 


 おまわりさんの話だと二回乗り換えないと……でも、バスの旅もやはり楽しい。

 


 窓に迫りくる生命溢れる木々はおかしな表現だけれども、緑なのに真赤な輪郭線をまとうような迫力がある。東京から離ると、植物にも力が宿るのだろうか。

 曲がりくねった住宅街をバスが歩く。地図だけでは見つけ難い場所。 

 小さな天満宮にたどり着く。あとはタッチして帰るだけ。

 帰りはタクシーを使おうか……



 あれ? まだ熱心に拝んでる。ご利益りやくがあるといいね、多恵ちゃんっ!




 

 













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る