5 未来を知るぞ
「うーん、やだなあ」
「どうしたテツオ。困ったことがあったのか」
さっきから雑誌を読んでいたのだけれど、あるページがいつも気になる。思わず声が出てしまった。
「占いの結果が悪いんだ」
「占い? なんだそれは」
「星座と干支とかで、今日の運がわかるんだ」
「魔法か!」
「いやいや、あくまでそんな気がするっていうか、昔からそうやってきたというか……うーん、占いってなんだ?」
よく考えると、占いの根拠とか、よくわからない。なんで未来のことがわかるんだろう。
「エチコにできる占いはないのかー」
「血液型は……エチコの血液型? そもそもエチコ、血液ある?」
「それぐらいあるぞ。でも、型ってなんだ?」
「輸血するときとか、一緒の型じゃないといけないんだ」
「輸血の意味も分からないぞ」
「うーん、ないのかなあ。あ、じゃあさ、おみくじを引きに行こうか」
エチコには僕らと同じ分類が通用しないかもしれないけど、おみくじならば誰でも引けるだろう。われながらいいアイデアだ。
「おみくじってなんだ」
「未来のことが書いてあるんだ。さあ、神社に行こう」
「おー、なんか街とは全然違うな!」
神社の雰囲気に、エチコのテンションは上がっていた。やはりエチコの星にはこういうものはないんだろうか。
「ここは神聖な場所なんだ」
「シンセイ?」
「神様がいるんだよ」
「カミサマ?」
いったいどこから説明すればいいんだろう。
「まあ、とりあえずおみくじを引いてみよう」
「おー!」
境内を進んでいき、おみくじ販売機の前に立つ。
「この四角いのがおみくじか」
「それはおみくじが出てくる機械だよ」
「この機械が未来を教えてくれるのか」
「いや、教えてくれるのは神様」
「じゃあ、神様はこの中にいるのか」
「うーん、神様はきっと別のところにいるよ」
「難しいな!」
確かに難しい。神様はいつおみくじを書いているんだろう? よくわからないけれど、とにかく引いてみるのがよいと思う。
「よし、お金を入れるよ」
「おー、あっ、エチコお金持ってないぞ」
「僕が出しておくよ。あ、エチコが入れてみな」
エチコに百円玉を渡す。
「そこに入れるんだよ」
「なるほど」
エチコが百円を入れると、スト、とおみくじが落ちてくる。
「取って開いてみな」
「おー。あっ、エチコ……まだこれ読めないぞ」
そういえばおみくじには日本語がいっぱい書いてある。
「じゃあ、僕が読むよ」
「助かるぞ」
「えーとね、中吉」
「なんだそれ」
「中くらいにいいんだよ」
「ざっくりしてるな。神様忙しいんだな」
「いやいや、その後にいろいろ書いてあるんだ。がんぼ……ねがいごと? 他人ととも……えーとね、お願いしたいことはかなうけど、我慢が必要だって」
「ほー」
「会いたい人がいたらむっちゃ来るってよ」
「すごいな」
「旅にはしばらく行かないほうがよさそう」
「そうか」
「学問……勉強は全力を尽くせって。頑張れってことだな」
エチコの目が輝いている。
「地球の神様、すごい物知りだな! 未来のこといろいろわかるんだな!」
「そうだねー」
正直なところ、おみくじに書かれていることが全部当たるわけでもないとは思うのだけれど、エチコがあまりにも感動しているので黙っておいた。
「よし、次はテツオだぞ」
「あ、うん」
エチコに促され、僕もおみくじを引く。
「どうだ」
「うっ」
「どうした、読めないのか」
「凶」
「キョウ?」
「あんまりよくないんだ。悪いことが起こりそうってことだよ」
「そうなのか! 神様が言うからそうなんだろうな!」
「願い事はかなわないし、待ってる人は来ないし、引っ越しは絶対やめろって……まあこれはいいか」
「大変だな! よし、エチコに考えがあるぞ!」
「えっ」
エチコは、僕のベルトをつかんだ。
「エチコと一緒にいれば、悪いことが起こっても平気かもしれないぞ。エチコは中吉で、会いたい人は来るし、旅に行かないってことは、ずっと一緒に家にいるってことだしな!」
「う、うん」
「よし、じゃあ早く家に帰って勉強するぞ!」
「え、えー!」
「神様はそう言ってるからな!」
エチコはすっかり神様の虜である。
ちなみに。家にて。
「テーツーオ」
部屋に入ってきた母さんの、口元が笑っていて目が笑っていない。
「あ、あの……」
「あなた、またテスト隠してたわね」
「いや、それは後で見せる予定だっというか、ほら、今はエチコと勉強しているし……ね、ね」
「エチコちゃーん、テツオ、勉強いっぱいしなきゃいけないみたいだから、頼んだわねー」
「わかったぞー、テツオの凶がなくなるまでしっかり見るぞ」
確かに僕の運勢はよくなさそうだ。あと、おみくじには「勉強むっちゃしないとやばい」と書かれていた。神様は、すごい。
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