12 価値を探るぞ

「むー、違いがわからないぞ」

 エチコが、首を振っている。困っているようだ。

「そうだねー、僕もなかなか」

 今日は、化石発掘イベントに来ている。学芸員の方がいろいろ説明してくれて、実際に自分でも化石を探すというものだ。

 確かに石がいっぱい出てくるのだけれど、どれが化石なのか、何の化石なのかはよくわからない。あと、エチコには生き物が化石になるという事実自体がうまく呑み込めないようだった。

「テツオもいつか石になるのか」

「えっ……ならないこともないと思うけど、僕は死んだら焼かれちゃうんだ」

「そうなのか」

「まあ、化石も突然の事態になっちゃうらしいから、僕もそんなことがあれば」

「そうなんだよー」

 気が付くと、僕らのそばに学芸員にお兄さんが来ていた。

「あっ、よく知ってる人だな」

「ありがとう。化石の中にはね、突然土に埋まっちゃったりしてできたものがあるんだ。僕らも今埋まっちゃったら、化石になるかも」

「うおー、なんか面白いな」

「僕は死にたくないよ……」

「ははは、そうだね」

 続けて化石を探していると、小さなとがったものを見つけた。明らかに普通のものとは違う。

「これは」

「あっ、それは恐竜の歯だよ」

「本当ですか!」

「うん、よく見つけたね」

「やった」

「テツオはいいなー、エチコも見つけたいぞ」

 エチコも黙々と探し続ける。しばらくして、動きが止まった。

「どうしたの」

「これはそうじゃないか」

「どれどれ。これは何だろうね?」

 僕らが悩んでいるのを、お兄さんがのぞき込んでくる。

「ついに見つけたのかなー」

「それが、よくわからないんです」

「わからないぞ」

 お兄さんが、エチコの持っていた石を見る。

「むむ」

「どうですか」

「どうなんだ」

「むむむ」

「えーと」

「わからない」

「えっ」

「えー、そうなのか」

 専門家にもわからないものがあるというのは、ちょっと驚きだった。世の中には謎がいっぱいあるのだろう。

「すごいものかもしれない。ちょっと、調べさせてもらえないかな」

「そんなにすごいのか」

「うん、価値があるものかもしれないよ」

 エチコはしばらく黙ったあと、こんなことを言った。

「かちってなんだ?」



 家に帰ってきたエチコは、テーブルの上にいろいろなものを並べていた。

「何してるんだい」

「エチコ、やっぱり価値がなんだかわからないぞ。だから見ながら考えるぞ」

 学芸員のお兄さんから説明を受けても、エチコはなかなか納得しなかった。ならばと家でじっくり考えるつもりのようだ。

「テツオはどれが価値があると思うんだ」

「うーん、これかな」

 僕は、小型のゲーム機を手に取った。何年か前にじいちゃんに買ってもらったものだ。

「それなのか? エチコはまったくわからなかったぞ」

「これ、二万円ぐらいしたんだよ」

「二万円すると価値があるのか」

「金額は高いほど価値があるんだよ」

「あれか、お金のことだな。なるほど、数字が大きいほど価値があるんだな」

「うん。じゃあそれを踏まえて、エチコはこの中でどれが一番価値があると思う」

 僕は、硬貨を指さした。

「これだな」

 エチコが選んだのは5円玉だった。

「なんでかな?」

「お兄さん言ってたぞ。珍しいほど価値があるって。丸いものは多いけど、きれいな穴の開いたものは珍しいぞ。あと、こっちより色も珍しいぞ」

 確かに50円玉は他の硬貨と色が似ているうかもしれない。

「残念、これは二番目に価値がないんだ」

「えっ、そうなのか」

「5円玉は5円にしかならないんだよ。一番価値があるのはこれ。500円玉は100倍の価値があるよ」

「見ただけじゃわからないな」

「うん、これはそういう価値を持たせましょうって、ルールで決まってるんだよ」

「珍しいから価値があるわけじゃないのか」

「そういうものもあるんだ。一目で価値がわかるものの方が、他のものと交換しやすいだろう」

「なるほど。交換のために価値を創り出しているんだな」

 僕は次に、サイン色紙を手に取った。

「これは難しいよ。母さんにはすごい価値があるんだ」

「この紙がか?」

「うん、紙というより字がね。有名な歌手に名前を書いてもらったんだよ」

「名前を書いてもらうと価値があるのか」

「サイン、っていうんだけどね。お金を出しても欲しいって人もいるよ。でも僕は誰だか知らないし、欲しくもない。だから僕にとっては価値がない」

「価値って、人によっても変わるのか! なんかもめそうだな」

「そうだね、もめることあるよ。価値観は人それぞれ、って言ってね」

「かちかん! また難しそうな言葉が出てきたな」

「例えばこれ」

 次に手に取って見せたのは、イラストの描かれたクリアファイル。ちょっとシュールな絵柄の女の子が笑っている。

「なんか面白い絵だな」

「うん、その面白いもエチコの価値観なんだよ。僕はかわいいと思うし、怖いと思う人もいる。どれが正解かはわからないし、全部正解かもしれないなあ」

「そんなにみんな違ったら、価値って結局わからない気がするぞ」

「うーん、そうなのかもしれないね」

「地球人は大変だな」

 考えたこともなかったけれど、確かにそうかもしれない。

「あの化石はどうだろうね」

「エチコにとっては思い出という価値があるぞ」

「おっ、いいこと言うね」

 エチコといると楽しい。それも僕の価値観だ。

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