11 恋の季節だぞ


 秋がやってきた。だから何だということもないけれど、秋は特別なことをしなきゃいけない気がする。

「テツオ、不思議なことが起こったぞ!」

 エチコがリビングでぐるぐると回転していた。

「どうしたんだい、エチコ」

「葉っぱが変身したぞ!」

 エチコは、黄色いイチョウの葉を持っていた。

「そうだね、秋になると、黄色とか赤に葉っぱの色が変わるんだよ」

「なんかすごいな!」

「あと、葉っぱがいっぱい落ちて、枝だけになる木もあるよ」

「生きていけるのか?」

「うーん、大丈夫みたいだね」

「不思議なことがいろいろあるな」

 まあ、僕も詳しくわかっているわけじゃないので、エチコと一緒にいるといろいろと勉強してみようという気になる。

「よし、いろいろな木を見に行ってみようか」

「おー、なんか楽しそうだぞ」



 公園にやってきた。なかなか広くて、小高い山みたいなものまである。予想通り、黄色や赤に色づいた木がいっぱい生えていた。

「なんか面白いところだなー」

「遊べるように整備されているんだよ。エチコ、ブランコとか乗ってみるかい」

「おお、乗ってみるぞ!」

 車輪をうまく固定して、エチコはブランコに乗った。

「あれ……あ、そうか」

 エチコには足の関節がないので、ブランコをこげないのである。

「じゃあ、僕がこぐよ」

「おお」

 エチコの後ろから乗って、ブランコをこぐ。

「しっかりつかまってるんだよ」

「揺れ始めたぞ!」

 やっぱりブランコは楽しい。これを発明した人は天才だと思う。

「あ、テツオ君」

 びっくりして、ブランコが横に揺れてしまった。

「リンちゃんっ」

「そんなに驚かなくていいのに」

 目の前に現れたのは、昔クラスメートだったリンちゃんだった。すごくかわいいのだけど、ミステリアスでとらえどころがない。

「びっくりするよ。こんなところで会うなんて」

「私は毎日来てるんだよ、ここ」

「テツオの知り合いか?」

「あら、すてき」

 リンちゃんは、エチコの顔をまじまじと見ている。ブランコがだんだんゆっくりになり、止まる。

「テツオの友達か」

「そうよ。リンっていうの」

「エチコだぞ」

「エチコちゃん。素敵な名前ね」

「初めて言われたぞ」

「あれ、テツオ君には?」

「言われてないぞ」

「ひどいねー」

「おお、そうか」

 なぜだか、会ったばかりの二人が意気投合している。不思議な感じのリンちゃんには、宇宙人がぴったりなのかもしれない。

「テツオ君はさ、今日はここに遊びに来たの?」

「いや、紅葉を見に来たんだ」

「へー、意外」

「エチコは地球のことを学びに来てるんだ。葉っぱの色が変わることも、学びの対象だよ」

「そっか。ごめんね、ひどいとか言って。優しいお兄さんみたいね」

「そ、そうかな」

「お兄さんってなんだ」

「エチコちゃんは好奇心旺盛ね」

 リンちゃんは、エチコに優しく微笑みかけている。それこそ、姉のようだった。

「こうきしんおうせい?」

「帰って辞書で調べてみよ」

「エチコ、まだ英語しか読めないぞ」

「あら、逆にすごい。じゃあ、テツオ君に協力してもらいながら調べてみて。そしたら、すぐに覚えられるから」

「わかったぞ」

「あのさ、リンちゃん……」

「なにかしら」

 実は、ずっと気になっていたことがある。

「その抱いてるの、何?」

 リンちゃんの腕の中には、白くてピカピカと丸っこいものが。

「あら、知らない? 猫よ」

「エチコも知ってるぞ。猫だぞ」

「いや、まあそうだとは思うんだけど……」

 リンちゃんは抱いていたものを、地面に下した。確かに形は猫だ。でも、その質感は、明らかに違う。固そうだし、毛が生えてないし、ひげもないし。

「今度新発売されたロボット猫、アイニャンよ。買ってもらったの」

「アイニャン」

「ロボットってなんだ」

 リンちゃんが頭をなでると、アイニャンは首を動かして、目を光らせた。まるで、生きているみたいに見える。

「ロボットは生きていないけど、生きているように動けるんだよ。エチコちゃんも触ってみて」

「おお!」

 エチコはしゃがんで、アイニャンの背中に触れる。

「そこは嫌がる猫もいるよ。ん、猫とは違うのかな……」

「あっ、寄ってきたぞ」

 アイニャンはごろごろと目を光らせながら(?)エチコにすり寄ってくる。

「見たことのない動き。そうとう好意があるみたい」

「そうなんだ」

「恋、かも」

「えっ」

「秋だからね」

「えっ、えっ」

 車輪の宇宙人と、ロボット猫。珍しいもの同士ではあるけれど、恋と言われてもちょっとそれはどうなんだろうと思う。リンちゃんは本気で言っているのか、からかっているのか。

「この子、かわいいな!」

「そうでしょ。エチコちゃんに恋をしているみたい」

「恋ってなんだ」

「すごく好きってことよ」

「そうか、エチコもアイニャンのことすごく好きになりそうだぞ」

「あらあら、両想いね」



 エチコは存分に楽しんだようで、家に帰ってからはおとなしくしている。

「なあテツオ」

「なんだい」

「またリンちゃんとアイニャンに会いたいな」

「そうだね」

「テツオも恋しているのか」

「えっ」

「違うのか」

「うーん、恋って、そんなに簡単にわかるものじゃないんだよ」

「そうなのか。エチコ、恋がわかるようになりたいぞ」

 エチコの望みは、果てしない。

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