10 ケーキを分けるぞ

「おおっ、いつもとちょっと違うぞ。マル……じゃなくてバツが少ないぞ」

「あのねエチコ、僕にも得意な教科があるんだ」

 エチコはまじまじと、僕のテストを見ている。なんといっても85点、今日は母さんに見られても困らない。

「ちなみにエチコのはこれだぞ」

 エチコがテーブルの上に置いたのは、百点満点の英語のテストだった。

「おう……」

「エチコ、頑張ったぞ」

 確かに頑張った。エチコはいつも頑張っている。決して僕が頑張っていないわけではないけれど、テストを並べるとちょっと、である。うーん。

「一度百点取りたいなあ」

「テツオは取れるぞ。エチコはそう思うぞ」

「ありがとう」

「そういえば、今度みんなが遊びに来たいって言ってたぞ」

「え、みんなってスクールの?」

「ああ、そうだぞ」

僕とエチコは同じ英語スクールに行っているけれど、クラスが違うので、エチコのクラスメートのことは知らない。

「うちに来て何するの?」

「知らないぞ。地球人は何するんだ?」

「うーん、パーティ?」

「パーティってなんだ」

「楽しいことだよ」

「楽しいことは好きだぞ」

 なんだかんだで、楽しいことをする運びとなった。



 パーティをするにあたり、母さんが出した条件は「全部自分たちで準備すること」だった。エチコはそれも楽しみにしているようだった。

「テツオ、パーティと言えば何が必要なんだ」

「うーん……ケーキ」

「ケーキ! っていうのは何だ」

「大きくて甘いものだよ」

「それはいいな!」

 そんなわけで、ケーキを用意することになった。

「じゃあ、買いに行かなきゃ」

「ケーキは買うものなのか」

「いや、作る人もいるけど」

「作れるものなのか!」

 そんなわけで、ケーキを作ることになった。



「おー、ちゃんと焼けたぞ!」

 エチコは車輪をぐるぐる回して喜んでいる。けれども僕は、とても憂鬱だった。台所は、とんでもないありさまだ。

「エチコ、大事な話がある」

「どうしたテツオ、何があった」

「準備というのは、後片付けまでちゃんとしてのものなんだ。だからケーキが焼けただけじゃ、ケーキの完成じゃない」

「つまり、どういうことだ」

「みんなが来るまでに、台所もきれいにしなくちゃいけない」

「そうなのか」

「後片付けできてないと、母さんがすごく怒るよ」

「母さんは怒るとこわいもんな!」

 エチコもよくわかっている。

 二人で協力して、なんとか時間までに台所を片付けることができた。

「完璧だぞ!」

「うん、あとはこんなを待つだけだ」



 四人の友達が、やってきた。みんな家に入ってくるなり、部屋の中を見回していた。

「そんなに気になる?」

「だって、宇宙船みたいなのかと思ってたから!」

「ピカーって光ったり」

「あー」

 みんな、宇宙人であるエチコの秘密基地みたいなのをイメージしてきたみたいだ。残念ながら、ありきたりな日本人の家である。

「エチコちゃんはそれで大丈夫なの?」

「エチコは楽しく暮らしてるぞ」

「すっごーい」

 一通り家の中を見た後、僕らはゲームをすることにした。父さんが残していった、昔のテレビゲームである。

「初めて見た」

「テレビにつなげるの?」

「これがカセットかー」

 ゲームをする前から盛り上がっている。良かった。

 一通り遊んだ後、いよいよお待ちかねのケーキタイムである。

「じゃじゃーん、エチコと二人で作ったんだよー」

「そうだぞー」

「えっ、すごい! おいしそう!」

「やったー!」

 みんな喜んでいるようでよかった。ここにいるのは六人、うまいこと切り分けなければならない。

「私切ってあげるー」

「ちょっと、大丈夫?」

「自分の分大きく切ったりして」

「えー、エチコも大きいのが欲しいぞ」

「私そんなにいっぱい食べないから、大きいのは譲るよ」

 予想外に、ケーキの切り方でワイワイガヤガヤになってしまった。確かにケーキが好きな人はいっぱい食べたいし、そのためには自分の文を大きめに切ればいい、ということになる。でも、そうすると不公平だ。

 ちょっと考えて、僕はこんな提案をした。

「よし、切るのはエチコに任せよう」

「おー、さすがテツオ、見る目があるぞ。エチコはうまいこと切るぞ」

「その代わり、切ったケーキを、エチコが最後に選ぶんだ」

「えっ、そんなことをしたら、大きいのは先に取られてしまうぞ」

「じゃあ、どうしたらいいかな」

「うーん、できるだけ同じ大きさに切るぞ。そうしたら、エチコの分が小さいのは避けられるぞ」

「そうだね」

 エチコはナイフを使って、慎重に慎重にケーキを切り分けた。どこからどう見ても、同じ大きさになった。さすが宇宙規模の正確さだ。



 そんなこんなで、楽しいパーティーをすることができた。

「地球人にはパーティーがあってうらやましいぞ」

「うん。でもねエチコ、忘れてないかい」

「なんだ」

「パーティの後片付けもしないと……」

「母さんに怒られるな!」

「そう!」

 きれいにするまでが、パーティなのである。 

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