22 未来を考えるぞ

「うーん、駄目かあ……」

「テツオ、どうしたんだ?」

 庭でため息をついていると、エチコがコロコロとやってきた。

「この柿の木、もう枯れちゃったみたいなんだ」

「枯れるとどうなるんだ?」

「そのうち腐って倒れちゃうかもね。そうならないうちに切った方がいいかも」

「そうなのか」

「爺ちゃんが植えたらしいんだけどね。なんか寂しいなあ」

「爺ちゃんってなんだ」

「母さんの父さんだよ。親の親が、じいちゃんとばあちゃん」

「そうなのか。テツオの爺ちゃんがこれを植えたのか。じいちゃんはどこにいるんだ?」

「もういないよ。じいちゃんもばあちゃんも」

 僕が本当に小さい頃に、二人とも亡くなってしまった。

「聞いた話だけど、じいちゃんの爺ちゃんも、柿の木を植えたらしいんだ」

「まだ上がいるのか」

「ずっといるよ。でも、あんまりさかのぼるとよくわかんないや。とにかく爺ちゃんの爺ちゃんが最初に柿の木を植えたんだけど、実がなる前に亡くなっちゃったんだって。僕の爺ちゃんは、自分もまた柿の木を植えて、孫たちにも柿を食べさせてやりたいって言ってた」

「すごいな。自分のためじゃないんだな」

「そうだね」

 まだ僕は孫どころか自分の子供のことも想像できないけど、やっぱりまた柿の木を植えなくちゃいけない、そんな気がする。



「意外といっぱいあるなー」

 ごみを袋に入れながら、エチコは感心していた。僕は何回目かだから驚きはしないけれど、確かにいっぱいある。

 僕たちは、町内会のごみ拾いに参加しているのである。

「そうだね。拾っても拾ってもあるんだよね」

「何で道にごみが落ちてるんだ。どこかから飛んでくるのか」

「そういうのもあるだろうけど、捨てる人がいるんだよね」

「道にか?」

「道とかそこら辺に」

「それはルール違反じゃないのか」

「ルール違反だよ」

「地球人はルールを破るものなんだな」

 耳が痛い話だけれど、ルールを破る人はほんの一部……だと信じたい。

「まあでも、こうやってきれいにする人たちも多いんだよ」

「捨てた人に拾わせればいいんじゃないのか?」

「うーん、誰が捨てたかわからないしね。捨てるような人は拾わないだろうし」

「なんか、やりたい放題だな」

「そうだね……」

 僕もときどき思う。授業中喋る人、掃除さぼる人、勝手に人のものを使う人。どれだけ注意してもやめないし、先生もだんだんとあきらめ顔になる。そうなるとまさに「やりたい放題」だ。

 反対に、ちゃんとしようとしてる人がたまに悪いことをすると、すごい怒られたりする。ひどいときは、「ちゃんと仕方がちゃんとしてない」と言われたり。

「テツオ、なんか考えてるな」

「え、あ、普段のことを思い出してね」

「そうか」

 まあ、とりあえずはごみを拾うことに文句を言う人はいないし、今日は先生もいないし怒られることはないだろう。僕たちはせっせとごみを拾い続けた。



「テツオ、大変だぞ!」

 エチコが手をバタバタさせながら駆け寄ってきた。

「どうしたの」

「船が見つかったぞ!」

「船? こんなところで?」

「星を渡るやつだぞ!」

「えっ」

 エチコが言っているのは、宇宙船だということが分かった。そういえばエチコと出会った時、そちらは回収できていない。どこかに流れて行ってしまった、と考えていた。

 エチコに連れられて行くと、すでに人だかりができていた。みんなの視線の先には、小さくて丸いボール状のものが。確かに宇宙船だ。

「すごい! あれ、でも……」

 どことなく、前に見た時とは形が違う気がした。あと、とても汚れていて、古いものに見える。

「あれはエチコが乗ってきたのじゃないぞ」

「え、でも」

「エチコもわからないけれど、どうも、エチコ以外もこの星に来たことがあるようだぞ」

「そうなんだ」

 エチコは宇宙船に近づいていき、手を触れた。

「これは、もう動かないぞ」

「そっか」

 あれ、ということは。今まで考えたことがなかったけれど、エチコは自分の星に帰る方法がないのではないか。

「でもこれは、エチコの星のだぞ。だからエチコの前が、誰かここに来ていたことは確実だぞ」

「そうだったんだね。いつ来たんだろうね」

 足が車輪の宇宙人が、エチコ以外にいたという話は聞いたことがない。人知れず山の中で暮らしたりしたんだろうか。

「少なくとも、エチコの星には帰ってきてないぞ。この星にいるか、いたはずだぞ」

 エチコの表情はいつも通り変わらなかったけれど、何となく寂しげに見えた。



 家に帰ってくると、エチコは新しいノートに向かって何かを書き始めた。

「どうしたの、エチコ」

「エチコ、考えたぞ。エチコの前にこの星に来たやつも、きっと苦労しただろうって」

「そうだろうね」

「エチコも初めてのことでいっぱい苦労したぞ。楽しいこともいっぱいあるけど、でもたまに、くじけそうになるぞ」

「そっか」

「だからエチコ、もしまた誰かが来た時のために、勉強しやすいノートを残しておこうと思うぞ。地球人は文字で色々伝えられるって学んだからな! エチコの後も、文字を覚えたらこれを読めるぞ」

「偉いね、エチコ」

「偉いのは、地球人だぞ。地球人は未来のために木を植えるし、みんなのためにごみを拾うぞ。だから、エチコもエチコにできることをするぞ」

 エチコは、すらすらと英語でいろいろなことを書き留めていく。

「何書いてるの」

「まずはルールの重要性についてだぞ。体系的にまとめるぞ」

「お、おお」

 エチコはすごい勢いで書いていく。本当に、すごい。

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