第3話 とりあえずやってみる。
『2018年2月12日(月曜日・振替休日)』
とりあえずやってみる。
この幼稚な言葉には、確かな可能性が潜んでいる。
とりあえずやってみることによって、世界は広がり、新たなる要素が自分に生まれる。
俺はスマートニュースを毎朝見て、ネタ探しをとりあえずやってみた。
今まで見なかったようなジャンルのニュースも見て、新しい発見があった。
その発見が直接ネタに繋がることもあるし、ネタに繋がらなくても知識に繋がる。
知識に繋がれば、いずれネタに繋がることもあると、俺は思う。
知識は輪っかのようなものだ、たくさん繋がれば繋がるほど他と繋がる可能性が高くなる。
スマートニュースを見て知識の輪っかを増やす時間は、とても大切な時間に、2日目で既になっていた。
林田は相変わらず、芸能とスポーツを行ったり来たりしていた。
俺は他のニュースも見てみたらどうだと伝えた。
普段見ないジャンルを簡単に見ることが出来るアプリなわけだから、見てみない手は無い、と。
すると林田は変化を見せた。
「天気のニュースって、見ると便利だね」
そういえば、コイツが傘を持っていた日は今まで無かった。
『今日の主なニュース:平昌開会式・トンガ代表、黄ニラ記念日、秋の自民党総裁選へ向け』
「はいどうも、よろしくお願いします……って! おい! ニュースだ!」
「そんなテンションで大丈夫か」
「平昌開会式でトンガ代表のピタ選手が上半身裸で登場したニュースの続報だ!」
「氷点下7度で上半身裸のピタ選手か、俺は見ていて普通にすごいなと思った」
「防寒対策にココナッツオイルを塗っていたんだってさ! な! トップニュース!」
「そんなテンションで大丈夫か」
「いやいや! ココナッツオイルってすごいって話だよ!」
「それでも俺はピタ選手のほうがすごいと思うが」
「だから今後僕もココナッツオイルを塗って漫才しようと思うんだ」
「嫌だよ、上半身裸でココナッツオイルを塗った相方と漫才するのは」
「いやいや、スーツにココナッツオイルを塗ってさ」
「もっと嫌だよ! 何かスーツがテカテカで気持ち悪いってなるだろ! 漫才の中身を見てくれないだろ!」
「いや中身はもう、温かそうってなるでしょ」
「温度の中身はどう見てくれてもいいんだよ! 漫才の中身を言っているんだよ!」
「出オチになるってこと? でもココナッツオイルだよ? ごま油じゃないんだよ?」
「俺からしたら一緒だけどな」
「ココナッツオイルは防寒対策以外にも、保湿もあるからね」
「スーツは保湿しちゃダメだろ、乾いていたいものだろ」
「あと紫外線対策もあるし」
「じゃあスーツじゃなくて肌に塗れよ」
「スーツを守りたいんだよ」
「スーツを汚しているんだよ」
「ごま油じゃないんだよ?」
「スーツに塗った場合は一緒だからな」
「黄ニラにはごま油のほうがいいけど、スーツにはココナッツオイルでしょ」
「どこから黄ニラが出てきたんだよ」
「今日、2月12日は黄ニラ記念日なんだ、2月が黄ニラの最盛期で」
「あっ、そうなんだ」
「でも黄ニラもココナッツオイルのほうがいいか」
「いや黄ニラは鍋がおいしいんだから、ごま油のほうがいいだろ」
「黄ニラってどうやって育てるか知ってる?」
「ニラに日光当てずに育てると、黄色くなるんだろ」
「だから黄ニラって、ニラにココナッツオイル塗って育てているんでしょ?」
「そうやって紫外線対策しているわけではないだろ、そうするとココナッツオイルの味がついちゃうだろ」
「味がついたからって何だという話だ、食べ物だぞ!」
「食べ物こそ味が大切だろうが! 変な味がついていたら嫌だろ!」
「ココナッツオイルは変な味じゃないから大丈夫!」
「黄ニラからしたら変な味だろ、黄ニラ目線で考えろよ」
「黄ニラ目線……ニラっていいよね」
「それ本当に黄ニラ目線か? ニラには無い良さがある黄ニラなのに、黄ニラがニラを褒めたら」
「そうやって褒め合っていけばいいと思う」
「まあ相乗効果があればいいけどな」
「自民党の総裁選も褒め合っていけばいいのにな、って思うよ」
「今年の秋には自民党の総裁選、つまり首相を決める選があるからな」
「結局最後は身内で攻撃し合うって、なんだかおかしいよね」
「でもまあそういう制度になっている以上しょうがないだろ、まあその制度も政治家が作っているんだけど」
「ココナッツオイル塗りあえばいいんじゃないの?」
「それは全然同意出来ないわ」
「うまくココナッツオイル塗れた人が首相みたいな」
「元エステティシャン有利すぎだろ」
「国会中継もその日はビーチから放送して」
「ビーチにオジサン・オバサンばかりの映像見たくないなぁ」
「皆スーツで」
「その場合は水着にしてくれよ、見たくないけど水着にしてくれよ、何でスーツの上から塗るんだよ」
「それが僕なりのクールビズ」
「スーツの上から保温しているから真逆だな」
「オジサン・オバサンには保湿も大切だし」
「スーツの上からじゃ意味無いんだよ、何回同じボケするんだよ」
「君さ、本当に、ココナッツオイル塗ったスーツに砂がついたら『YEAH!』ってならない?」
「もったいない! って思うかな、結構序盤でもったいないって思うかな、ビーチにスーツの時点で思うかな」
「感覚が違いすぎて、本当に好き」
「そこはまあ褒めてくれているからどうもありがとう」
「でもあくまで僕はね、このココナッツオイル塗り合う総裁選はクールジャパンだと思うけどなぁ」
「何を世界に発信しているんだという話になるけどな」
「ココナッツオイルはジャパンの柱だからね」
「どちらかと言えばトンガだろ、もういいよ」
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