スマート漫才師ニュース
伊藤テル
第1話
『2018年 2月11日午前』
俺はお笑い芸人、売れないお笑い芸人だ。
隣にいる描写のしようがない何の特徴の無い黒髪の男は俺の相方だ。
そして、描写のしようがない何の特徴の無い茶髪の男は俺だ。
何の特徴の無い二人なわけだから、当然ネタ作りも行き詰る。
そんなある日、相方の林田がニヤニヤしながらスマホをいじっていた。
何の特徴の無い黒髪のくせにニヤニヤしているなんて、何様のつもりだと思っていると、林田はおもむろに口を開いた。
「このスマートニュースっていうアプリ、面白いよ。芸能からスポーツまで、いろんなニュースがあるんだよ。僕、すごいの見つけちゃったよ」
芸能からスポーツだとさ、いろんなという割には範囲が狭いな、スポーツ新聞か、と思っていると、林田が狭い範囲でしか使っていないだけだった。
俺もダウンロードして使ってみると、政治・経済に、グルメ、人間関係まで、たくさんのニュースがあり、実際、スポーツ新聞の記事もあった。
そして気付いたのだ、このスマートニュースというアプリでネタを探せば、良いネタが作れるようになるのでは、と。
俺と林田は、出来る限り、毎日集まって、このスマートニュースというアプリを使って漫才を作っていくことにした。
これは俺と林田のネタ帳、そして少しの日記だ。
『2月11日の主なニュース(午前):スピードスケート3000メートル・日本勢メダル獲得ならず、日本海側に大雪注意』
「はいどうも、よろしくお願いします。いやぁ、早速オリンピアの話でもしましょうか」
「若干の違和、まあそうなんだけどオリンピックって言い方しろよ」
「でも実施するのはオリンピアだから」
「実施とも言わないし、いちいち言い方がズレているんだよ」
「言い方なんてどうでもいいじゃん、伝わればそれが言葉でしょう」
「その伝達力が弱いんだけどな」
「それにしても日本勢のトップは高木選手の5位と惜しかったなぁ、表彰台はオランダ勢が独占というわけで」
「スピードスケート3000メートルな」
「いや、風車の作る速度だよ」
「そんな競技ねぇよ、もしあったら高木選手快挙すぎるだろ、オランダ勢まであと一歩じゃねぇか。スピードスケートだから、スピードスケートな」
「あっ、スピードスケートかぁ、スピードスケートって要はテニス?」
「全然違うわ、球技じゃねぇよ」
「いやテニスは球技じゃなくてラケット技だからツッコミがおかしいよ」
「ボケがおかしいんだよ! ボケがおかしいんだよってツッコミは確かにおかしいけども、ボケがおかしいんだよ!」
「じゃあ球技ではないんだね?」
「そこからの説明がいる大人っているのか? スケート靴は知ってるか?」
「あのペーパーナイフが底についた靴でしょ、よく使ったよ」
「ペーパーナイフじゃないし、使うな、ペーパーナイフだって使うヤツ少ないのに」
「今のは偏見でしょ、ペーパーナイフは使いまくるよ、バター塗る時に」
「だったらバターナイフ使え」
「バターナイフはちょっと大人すぎるよ、アダルトの香りは朝からさせたくないんだ」
「全然大人じゃない、全然大人じゃないっていうのもちょっと違うけど、アダルトという表現は使わない」
「で、その表彰台はアダルト勢が独占したスポーツって何なの?」
「オランダ勢な! カタカナ4文字しか合ってねぇ!」
「あぁ、おらアダルト勢ね」
「田舎の人の一人称足しただけじゃねぇか、アダルト勢にそんな一人称のヤツいねぇよ」
「今のも偏見でしょ、ペーパーナイフ使いまくるよ」
「似たセリフで混同して台詞間違えている!」
「ローション塗る時に」
「いやアダルト勢の流れはちゃんと入っていた! いやいいんだよ、そういうの、スピードスケートの話をさせろ!」
「でもなんか思い出したかも、あの何か、すごい恰好しているスポーツでしょ?」
「アダルトの流れからいくと何か変な感じだけど、まあ確かにすごい恰好はしているわ、全身を覆ったスーツな」
「スケート靴で氷上を走って、そのスピードで競って……3000メートル走って! すごい! これ! 分かるぞ! 分かるぞ!」
「自分の理解力に興奮するな、そしてそんなにすごくない」
「そういうスポーツかい! スッと言ってよ!」
「スッと言うつもりだったよ、オマエが邪魔しなきゃ」
「そこでアダルト勢が独占か……」
「そこは頑なだな! オランダ勢! ヨーロッパの国!」
「じゃあお洒落じゃん」
「全部が全部そうではねぇよ」
「スーツも多分お洒落で透明なんだろうな」
「いききったファッションショーじゃねぇんだよ、結局裸の王様が一番お洒落なんですね、じゃねぇんだよ」
「氷上で裸の王様は寒すぎでしょう」
「ただのツッコミの一台詞だよ! 突っかかってくんな!」
「寒いと言えば、11日は日本海側に大雪や吹雪の警報が出たり出なかったりみたいですね、地域によって」
「まあ地域によって出たり出なかったりだろうな」
「何か来るんでしょう?」
「今日は訪問客が来る日だよね的な言い方、まあ寒波、平たく言うと寒波」
「寒波って聞くと、カンパンみたいでおいしそうだから別の言い方してよ、バター塗りたくなる」
「オマエ、バター好きだな!」
「人間ってもう乳牛無しでは生きられないからね」
「何その台詞、酪農家の一面見せてくるんじゃねぇよ、酪農家じゃねぇのに。まあ真面目に答えると、風がぶつかって雪雲が大きくなるJPCZが出てきて、雪が強くなるんだよ」
「ゼイ・ピー・シー・ゼット?」
「ジャパネットたかた社長のJの言い方ゼイじゃねぇんだよ、長崎のゼイ1昇格じゃねぇんだよ」
「アダルト勢・ピー・シー・ゼット?」
「ちょい足しするな」
「長崎に大雪かぁ」
「そこはもう日本海側って言わない! 山形とか新潟とか、あと鳥取とかを日本海側と! まあちょっと降る可能性もあるんだけどな!」
「その、ゼ?」
「ジェ」
「ジェイ・ピー・シー・ゼットって何なの? 日本語で言ってよ、JPでシー・ゼットを言ってよ」
「JPも一部だからな、ジャパンのことJPって言うけど、JPもジェイ・ピー・シー・ゼットの一部だからな。まあ日本語で言っても分かりづらいけども、日本海寒帯気団収束帯って言うんだ」
「じゃあ……まあ……寒波が来るわけね」
「うん……寒波が来るんだよ、寒波が来るんだよ!」
「君が大きな声を出さないでよ」
「難しいんだよ、覚えづらさマックスでよく今俺言えたな、いやそんな話はどうでもいいんだ。とにかく大雪に注意って話だ」
「あぁ、大オランダ人に注意ね」
「もうオランダ人は関係無いから」
「あれ? 平昌からオランダ勢が日本海側へやって来るって話じゃなかったっけ?」
「来ないというか来れないわ!」
「いや日本海はもう寒さで凍っているから、そこからスピードスケートでダッって来るんじゃないの?」
「何で表彰台独占した選手がやって来るんだよ! 日本海側に! まず日本海が凍ってない!」
「いや寒いんだから凍っているよ。だから、オランダ人が秒速12.5メートルでやって来るよ」
「早いな! まあ3000メートルの金メダリストの平均秒速がまさしくそれだけども! でも来る意味が無いから!」
「天気に意味なんてないよ」
「そうだけども、この場合、オランダ人は天気じゃねぇんだよ!」
「でもまあ高木選手はこの5位を転機にして、他の種目で金メダル獲ってほしいですね」
「何もうまくないけども、金メダル獲ってほしいことはそう! もういいよ」
今日はもしかしたら林田と、もう1回集まれるかもしれない。
集まれる時は、とにかく集まってネタを量産しようという話をして、この時はそれぞれ帰路についた。
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