第7話 制限

『2018年 2月16日(金曜日)』


 物事には大抵制限が掛けられる。

 制限があるから、抑止力が生まれる。

 しかしそれと同時に、その制限を破りたい思いも生まれる。

 制限が何もない時よりも、

 制限があることにより、制限が無い時以上にしてしまうなんて話はよくある話だ。

 でもやはり制限は必要だ、その制限により止まる人のほうが多いからだ。


 しかし、その制限は誰が決める。

 そしてどこまで制限するのか。

 今、制限という言葉を使っているが、ここで言葉を上限に変えよう。

 絶対無いといけない部分も限度の中にあり、そして当落線上の部分も限度の中にある場合、

 当落線上の部分は、絶対無いといけない部分に入りたいと思う。

 それが叶わない場合は、せめて上限の中に入りたいと思う。

 上限の中に入るための戦いがある。

 その戦いは、とてもとても醜いのだ。

 その醜い戦いをさせる、

 ”誰か”がいる。


 林田が喫茶店に入って来た。

 今日も遅れてやって来た。

 しっかりとした時間制限は無いが、しかしいつも俺よりも遅くやって来る。

 遅くやって来たほうがコーヒーを一杯おごるという約束事を決めると、一体どうなるのだろうか。


 ……林田は金にだらしがないから多分、おごることが遅れてきていい免罪符となり、

 もっと遅くくるようになるだけだろうな。




『主なニュース:新元号の発表・今年末以降、カジノ法案の中身』

「はいどうも、よろしくお願いします。新元号の発表は今年末以降の予定らしいね」

「まあそれくらいがいいんじゃないかな」

「前回は人間の座高くらいの高さの紙に、平成って出したけども、次はデカい紙に書いてほしいね」

「何でだよ、あの平成の時くらいの大きさでいいだろ」

「画数多い漢字が選ばれたら、見づらくなるじゃん」

「そういえば、あんま画数多い漢字が選ばれることってないなぁ」

「えっ、贔屓じゃん! 画数少ない漢字ばっか有利だよ!」

「漢字にそういった心は無いから大丈夫」

「じゃあもう、溝とか不利だよー」

「溝という漢字は元々元号向きじゃないだろ」

「パンツを穿くとか、穿つとかも不利だね」

「いや画数自体は少なめだけど、元号向きじゃない」

「元号向きって何?」

「俺の感覚で言うと、小学生の時に習う漢字の中で、平和とか平常心とかに関係する漢字が選ばれやすいかな」

「じゃあ鬼は無いね」

「鬼は無いだろうな」

「刀鬼ではないね、次の元号」

「刀鬼は無いだろうな、逆にというかむしろ刀のほうが無いね、鬼よりも」

「犬を狩るで、犬狩も無いかなぁ」

「もうそういう変に意味持っちゃってるヤツはなんねぇだろ」

「豚味噌もないね」

「何でもありじゃねぇか、この大喜利。あと地味に味噌の噌という漢字が画数多い」

「ひらがなでもいいけどね」

「確かに、ひらがなくらいなら、あっていいような気もするな」

「もやし、とか」

「だから意味を持っちゃってるヤツはなんねぇって」

「みそもやし、とか」

「もやしを味噌で炒めたのか、みそを燃やしているのか、どっちなんだよ」

「みそを燃やしてるんだよ!」

「そんな元号絶対無いからな!」

「でも今一番熱く燃えているのはカジノ法案だよね!」

「オリンピックだろ、カジノ好きなのオマエぐらいだろ」

「カジノファンはいっぱいいるよ!」

「まあそうだけど」

「でもカジノの入場に制限ってさー、週3回、28日間だと10日間って、少ないよ」

「依存症になっても困るという話で」

「でもなんだってそうじゃん、依存症って言い方したら、なんだってダメじゃん」

「まあそうなんだけども。依存症って悪い時にしか使わない言葉だからな」

「本人確認はマイナンバーって、マイナンバー使いたいだけじゃん」

「まあ誰でも持っているものだからっていう理由もあるんだけども」

「カジノの広さも制限だってさ、リゾート地の3%って!」

「もう広さは個人で言う文句の幅越えているだろ、業者になってきてる」

「極めつけは国内で認めるカジノの上限を決めるって! コンビニくらい作れよ!」

「いやコンビニほどは作りすぎだけど、上限ってあれだよな、誘致合戦してくれって言ってるもんで何かきな臭いよな」

「キナコ臭いよ、おいしいおもちか!」

「キナコ香りはいいだろ、誘致合戦の話させろ、結局政治家が裏金欲しいだけになってるような」

「どんだけ金欲しいんだよ!」

「いやオマエは言える立場じゃないだろ、カジノカジノ言っておいて。まあみんな金欲しいけどな」

「でも元号にも誘致合戦ってあるよね」

「えっ、それはどういうことだよ」

「元号に似た名前とか、同じ音読みになったらその土地が盛り上がるじゃん。オバマ大統領で小浜市が、みたいなの」

「そういうのあったなぁ」

「元号が東京になったら、東京は盛り上がるわけじゃない、元号の町みたいなこと言って」

「まあ東京にはならないだろうけども、確かにありそうだな」

「元号を若菜にして! とか」

「あぁ、農産物が菜っ葉で有名なところは」

「いや若菜ちゃんのファンが多い県が」

「まず誰だよ若菜ちゃん! あとファンが多い県ってなんだよ!」

「じゃあ新元号を米所に」

「もうまんまだな、新潟とか北海道とかがそう言うってことか」

「いやもう日本全体が」

「誘致になってない! 裏金が生まれないだろ!」

「裏金は生ませたくないだろ!」

「確かにそうだけど! もういいよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る