第6話 語彙量

『2018年 2月15日(木曜日)』


 豊富な語彙量は人を幸せにしたのか。

 外国語さえも日本語にしてしまう、日本は語彙の数が多い国だ。

 その多さを生かして、とある海外の美容品メーカーは、

 商品テストする人に日本人を起用し、その豊富な語彙で感覚を表現させ調査していた。


 しかし本当に語彙が多いことは良いことなのか。

 微細な表現があることは美しいことかもしれない。

 でも知らなくてもいい言葉を知りすぎてしまったような気がしてならない。


 もっと、

 ありがとう・たのしい・うれしい、などだけで生きていたかった気もするが、

 語彙は減ることが無い、増えるだけの存在、もう手に入れた語彙を手放すことは出来ないし、

 やはり手放す気もあまり無いのだ。


 出来るだけ幸せな語彙だけを使って、生きていければ、苦労することは無いのに、と、

 心の奥底が震えた。


 林田が喫茶店にやって来た。

 いつも少し遅れてやって来るなぁ、と思った。

 果たしてコイツの語彙は何が発達しているのか、

 昔大喜利ライブをやったことがあるが、その時は、

 ラブホテルっぽい名前というお題の時だけ圧勝していたなぁ。




『主なニュース:先住民言語「ジェデク」確認、日本人のカジノ週3回制限』

「はいどうも、よろしくお願いします……って、飽きたね、最初の挨拶」

「最初の挨拶が飽きるってなんなんだよ、じゃあどんな挨拶するんだよ」

「はいどうも、ね、ね、ね……みたいな」

「全然言葉出てきてねぇ、オマエの語彙どうなってんだよ」

「ごい? ゴリじゃなくて、ごい?」

「ゴリってなんだよ」

「ゴリラ似の人のあだ名だろ!」

「ツッコミみたいに言われても、語彙っていうのはボキャブラリーって意味、知っている言葉の量という意味かな」

「ゴリでしょう、ナベさんでしょう、あとはまあ、ザキさんかな」

「あだ名のボキャブラリーはどうでもいいんだよ」

「これで全部」

「まだまだいっぱいあるわ、ボキャブラリー少なすぎだろ。でも少ないから悪いってわけじゃないんだよな」

「どういうこと、量というものはいっぱいあればあるほどいいでしょ、あの、えっと、なんだっけ、サツ、サツ」

「……お金のこと?」

「そう! 万サツ!」

「お金も出なくなるヤツもう手に負えないわ、それくらいは出たほうがいいな、日本人なら」

「いやどこの国の人でもお金は出たほうがいいでしょう」

「そうとも言えないのがこのニュース、マレーシアの先住民言語『ジェデク』が新しく確認されたんだけども」

「何か新しいスイーツの名前みたいだね」

「スイーツは出るんだ、まあいいか、狩猟民族なんだけども、モノを所有する言葉が存在していないんだ」

「どういうこと?」

「買う、売る、借りる、盗むなど、所有する動詞が存在しない。つまりその言葉は必要無いっていう意味なんだ」

「じゃあどうやってパンツ買うんだよ!」

「パンツだけじゃないけども、パンツだけじゃないけども、その分、交換や共有という意味のボキャブラリーが豊富なんだ」

「パンツの共有するんかい!」

「交換があるから、それにこっちからしたら未知の言葉でパンツを分かち合うかもしれないし」

「それって何かすごいね、考えられない世界だからちょっと寝てきます」

「興味を持て! すぐ寝ようとするな、お前は」

「寝る子をうがつ!」

「寝る子は育つな」

「何でうがつという漢字と、パンツをはくという漢字は同じ字を書くのだろうか」

「何でうがつの知識はちょっと人よりもあるんだよ、いやまあ知らないからないのか」

「他に無い言葉ってあるのかな」

「狩猟だけだから、職業って言葉も無いらしい」

「パンツ屋さんどこいった!」

「皆それぞれ家で作るんだろ、あと裁判という言葉も無いらしい、その言葉が無くていいなんて平和だな」

「再パンツは?」

「えっ?」

「再パンツは?」

「俺はその言葉知らないわ」

「一瞬脱いですぐはく再パンツは?」

「その行動に何の意味があるんだよ、そこの言語は発達してねぇよ」

「一瞬脱いですぐはく一瞬の隙で、一瞬拍手する、再パクツは?」

「何回一瞬って言うんだよ、その一瞬まとめたら結構あるわ、時間。ねぇよ、そんな言葉、どの世界にも」

「無いかぁ、じゃあ普通だね」

「何をもって普通とするかどうか分からないが、普通に盗むとか裁判とか無い世界、うらやましいよな」

「でも一番うらやましいって言ったらカジノある世界だよね」

「いやカジノってどうかな正直、俺はどちらかと言えば反対派だし」

「いいじゃん、カジノ、面白そうで。ポーカーとかブラックジャックとか、スロットとかやりたいじゃん」

「そうかなぁ、どうせ儲からないし、そういう仕組みだし」

「いやブラックジャックは勝てるゲームだよ、でも熱くなるのはバカラだよねぇ」

「オマエ、カジノ詳しいな! 寝るだけじゃないのかよ、違法のとこやってないよな?」

「何をもって違法にするかの言語は足りていない」

「いやその言い方が確信犯だな、違法だけは止めてくれよ、海外のリゾートならまだしも」

「でもリゾートでも、日本人は週3回までという制限をつける案が出てるみたいじゃないか」

「ホント、カジノについては詳しいな!」

「もっと入り浸りたい、おひたしになりたい、僕のおひたしカジノ味になりたい」

「最後の言語の部分がうまく絡み合ってないな、もっと言葉を省略しろ」

「再パクツみたいに?」

「それは省略しすぎてよく分かんないが」

「もういいよ」

「いや漫才一気に省略したな、もういいよ」

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