第5話 2月14日 主張

『2018年2月14日(水曜日)』


 漫才で自分を出すということは、いるのか、いらないのか。

 本人がしゃべっているように作ることが漫才の基本で、

 ある程度は自分の口から出た言葉が真実ではなければならない。

 ボケだって、面白いことを言いたい、という真実なのだ。

 でも、

 そんな政治的主張をしたところで、どうなんだろうか、

 ただ笑ってくれればいいだけなのに、そこに考えさせられる何かを入れるのは、余計ではないか、と。

 ……という俺の主張だ、結局これも主張で、誰かを考えさせたり、何なら傷つける可能性もある。

 まだこれは日記という段階だからいいものの、これを漫才の中に組み込んだら。それはもう主張だ。

 俺は自分を出したいのか、出したくないのか。

 出したくない派である。

 漫才で芸能人の個人名を出したくないという主張はあるが、

 やはり有名な芸能人の個人名を入れると、格段にネタが分かりやすくなり、ウケが良くなる。

 だから今日の漫才では芸能人の個人名が入っている。

 あくまで俺が出したくない派であり、相方の林田は出したい派の急先鋒だからだ。


 林田は特に芸能ニュースが好きだ。

 一緒にネタを作っている以上、芸能ニュースも入れなければならない。

 ただし、個人批判にはならないように、そこだけは気を付けて。

 笑わせることが目標なのに、人を傷つけてしまったら、それは本当に、馬鹿のやることだから。


『主なニュース:りゅうちぇる歌手デビュー、バンドン高速道路19年完工予定が24年か、カカオの樹の栽培条件』

「はい、どうもよろしくお願いします。りゅうちぇるが歌手デビューするらしいね、沖縄は歌手の宝庫だね」

「ちぇるちぇるランドな、沖縄って絶対言っちゃダメだから」

「褒めたつもりがまさかのしっぺ返し」

「しっぺは俺から飛んできてるから、りゅうちぇるは俺らのこと知らないから」

「僕らはりゅうちぇるのこと知ってるのに」

「有名人と一般人の関係って全部そうだから」

「RYUCHELL名義で歌手デビューして、自分の色を取り戻そうというメッセージを伝えていくみたいだね」

「りゅうちぇるのような思い切った恰好をしている人が言うと、説得力があるな」

「僕も自分の色を取り戻すよ、地球侵略するよ」

「元々そんな色ねぇだろ、味噌とドブ混ぜて煮込んだふ菓子の色で、よく眠るだけだろ」

「確かにヒマさえあれば寝ているけど、そんな色じゃないよ、もっと緑がかった黄土色だよ」

「じゃあその色じゃねぇか、多分味噌ドブふ菓子は緑がかった黄土色だから」

「りゅうちぇるのようにカラフルになりたいなぁ」

「結局なりたいになっちゃった、色を取り戻そうという話なのに」

「まあ僕の色には僕の良さがあるからね、寝汗は誰よりもかくという一点においては」

「まあまあ、本人が良さと言っている以上、こちらはそれ以上言う権利は無いですから」

「でもさ、もっと暖かい地方ならさ、もっと寝汗がかけるんじゃないかと思うんだ」

「何でそんなに寝汗をかきたいんだよ」

「痩せるからだけども」

「水分が抜けているだけで実際は痩せているわけじゃないんだけどな」

「それこそちぇるちぇるランドで寝たい」

「まあ暖かいかもしれないな」

「あっ、沖縄ね」

「だから言うんじゃねぇよ」

「でももっと暖かいところに行きたいなぁ、インドネシアなんて南国でのんびりしてていいかも」

「インドネシアはのんびりしていたくないらしいけども」

「どういうこと?」

「インドネシアのバンドン高速道路が19年完工予定だったんだけども、24年にずれ込む可能性もあるって問題になっているらしい」

「そんなにずれ込むなんて便秘だったらヤバイね」

「便秘だったら19年も嫌だろ」

「寝汗かいて便秘も解消!」

「便秘は体内に水分を多く含んでいると解消しやすいんだから、寝汗かいたらダメだろ」

「でも高速道路出来ないほうがいいんじゃないかな、高速道路の走る車の音で寝れないじゃん」

「高速道路の近くってだいたい家ないだろ、だから大丈夫だろ」

「寝る時だけ、めっちゃ耳良くなる人とか不便でしょうに」

「そりゃもう元々超不便だな、高速道路とか関係無く」

「高速道路とか出来始めているのかぁ、インドネシアは、じゃあもっとのんびりしたところにいきたいなぁ」

「まあ出来始めていないんだけどな、バンドン高速道路は」

「カカオの樹を作っているようなところは、のんびりしてそうでいいなぁ、バレンタインだけに」

「いやそこもいろいろ大変らしいぞ、異常気象一発でカカオの樹はダメになって、カカオ農場はのんびりしていないから」

「いやいや、そうかなぁ、じゃあそのカカオの樹に必要な条件を教えてよ」

「まあその条件自体は寝汗かくのには適しているんだけども、異常気象対策に四苦八苦って話で」

「とにかく教えてよ!」

「平均気温27度以上」

「寝汗の理想郷だね」

「寒暖幅が狭い」

「じっとり寝汗に汗出せるね」

「日照時間は6時間前後」

「昼寝も夜寝も汗楽しめるね」

「高温多湿」

「出た! 寝汗界最強の四字熟語!」

「土壌自体の水はけが良い」

「そこはダメだね」

「ダメっていうかどうでもいいだろう、土壌の話は」

「やっぱ汗が地面に溜まらないと」

「何地面に直で寝ようとしているんだよ!」

「地面は温かいから!」

「どう考えても寝づらいだろ!」

「それは凡人の、一般的な寝汗ストだから」

「ナルシストみたいに言われても、まず俺は寝汗ストではないし」

「でもまあ異常気象さえなければ、のんびりだよね? その年を選んでカカオの樹の下に行くよ」

「いや、まだカカオ農場には問題があるんだ」

「じゃあもう寝れないよ!」

「そう、寝れない理由が。それは後継者問題だ、後継者がいないんだ、後を継いでくれないというか」

「日本と一緒! 嫌な汗をかいちゃうよ!」

「いやもうさっきから汗汗うるせぇな! お前の色は汗透明だ! もういいよ」

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