第4話 基盤

『2018年 2月13日(火曜日)』


 朝、目が覚め、スマートニュースを確認すると、日本は3つのメダルを獲得していた。

 嬉しいと同時にホッとした。

 頑張っている人が報われない未来なんて嫌だから。

 しかし、頑張っているのは日本選手団だけじゃない。

 参加している国の人、全員頑張っているのだ。

 勝負の世界は非情だ、そしてこの世は全て勝負の世界。

 つまりこの世は非情だ。

 俺も漫才師として勝たないといけない。

 今はとにかくネタを作るだけ、まだその段階だ。

 でもこの段階だからって怠けてはいけない、この最初の段階こそ一番大切なのだ。

 全ての基盤となる部分、始まりをおろそかにして頂上へは行けない。


 林田が少し遅れて喫茶店にやって来た。

 初めて傘を差してやって来た。

 開口一番、こう言った。


「傘って意外と重いね、やっぱりもういらないから、あげるよ」


 俺の持ち傘は2本になった。急に2倍だ。

 日本の獲得メダルも急に2倍になればいいのに。



『2月13日・主なニュース:日本勢銀1個・銅2個、年間500もの学校が廃校、新元号の発表時期で迷い』

「はいどうも、よろしくお願いします。平昌オリンピックでついに日本勢がメダル獲得したね!」

「フリースタイル男子モーグルで日本勢初のメダルを原選手が獲得したことを皮切りに」

「皮むきにね」

「いや皮切りにで合ってる、メダル獲得しておめでとうのリンゴ皮むいてないから」

「で、スキージャンプ女子ノーマルヒルで高梨選手がGOメダル獲って」

「行け行けメダルなんてないから、そしてスピードスケート1500メートルで高木選手が銀メダル」

「銀色ってこの世に実在したんだ」

「ハッキリ言って金もあるからな」

「でも実際銀色って見たことあるかい? マジの銀色」

「マジの銀色って言われると、自信が徐々に薄らいでいくな、でもあるわ、銀色の鉄、割とあるだろ」

「メダルの銀以外、銀じゃないという説もあるよ」

「ねぇよ、どんだけオリンピック至上主義なんだよ、オリンピックはこの世の全てではねぇよ」

「すごいニュースでやってるから、そうだと思った」

「変な話、この時期しかやらないだろ、日頃ずっとそうならそうかもしれないけど」

「日頃の記憶はあんまり無いからよく分からないなぁ」

「大丈夫かオマエ」

「今しか生きていない、おにぎり食べたいなぁ」

「今に集中してくれ、漫才に集中してくれ」

「そう言えば、あ、オリンピック以外の話になるけどいい?」

「オリンピック至上主義じゃないからいいよ、して全然いい」

「年間500もの学校が廃校になって、捨て校舎の処理が大変らしいよ」

「捨て校舎なんて言い方しねぇよ、まあそういう使わなくなった校舎をどうするかは問題らしいな、取り壊すのにも金掛かるし」

「おにぎりくれる場所になればいいのに」

「じゃあもうどこだってそうだろ、どこだっておにぎりくれる場所になったら嬉しいだろ」

「確かに、横断歩道でもおにぎりくれたら『おっ』って思うもんね」

「子供の通学時間は横断歩道に人立ってることあるけど、それ以外は人いない場所をたとえに出すな」

「黄色い旗上げたらおにぎりくれて、カレー味の」

「色と味でくだらないことを言うな」

「でも廃校になったら横断歩道に人が立つこともなくなる! ピンチじゃん!」

「まず横断歩道でおにぎり配らないからそこの心配はない、でもまあ廃校が多くなることはピンチだよな」

「みんな少子化ブームに乗っちゃって」

「ブームってわけじゃないんだけどな、少子化問題な」

「少子化に歯止めをかけるには、やっぱり時代を先取りしていきたいね、よしっ、元号変えよう」

「元号変えても全然根本的な解決にはならないんだけどな。気分的な問題と言ってもいいくらい」

「それにしても新元号の発表の時期に迷いがあるみたいだね、まだ決まっていないという」

「まあタイミングって重要だからな、そこはまだ迷っていてもいいんじゃないかな」

「次の元号ね、僕実は予想立ててんの、スキージャンプ見ている時に思ったね」

「多分結構最近急に予想立てたんだな、まあ言ってみろよ」

「膝」

「新元号が膝! 体の部位で一文字! 何でそうなったんだよ!」

「スキージャンプって膝が大切だなぁって」

「それだけでよく言ったな! スキージャンプはもっといろいろ大切だし! もう新元号が膝だけは絶対無い!」

「君、じゃあさ、賭けしようよ、今日の夜食のおにぎりかけれる?」

「何で今日の俺の夜食を勝手におにぎりに確定するんだよ、あと今日中に発表されないから今日の分はかけられないだろ」

「まあ発表された日の夜食のおにぎりかけれる?」

「だから夜食をおにぎりに確定すんな、あと俺あんまり夜食食わないし」

「おにぎりにワサビかけれる?」

「しかも罰ゲーム的な感じなんっ? じゃあまあかけれるわ、じゃあオマエもおにぎりにワサビな」

「いや僕はおにぎりの海苔を皮むきするだけ」

「全然罰になってないじゃん! 等価じゃねぇ! おにぎりの海苔とるの皮むきって言わないし!」

「いつになったら皮むきって言うんだい!」

「リンゴの時にでも言えよ!」

「なんだい全く、僕は、おにぎりは海苔無い派なんだ」

「じゃあ罰にもなってないじゃん! まあ別にどうでもいいわ、膝だけは絶対無いから」

「根拠を教えてくれよ、じゃあ。その点こっちはスキージャンプ見て膝!」

「もはやオマエのソレは根拠じゃない、感想だ」

「根拠! 根拠!」

「元号の頭文字のアルファベットが連続でHになるだろ、平成・膝で。書類書く時、平成のHとか昭和のSとか、丸付けることあるだろ、それが訳分からなくならないようにHの二連続だけは絶対無いんだ」

「えぇー、僕、新元号はHなことしか考えていなかったよ」

「Hなことって言うと語弊があるだろ」

「じゃあ可能性で言うと、KとかNとか? 最近使ってないアルファベットの」

「まあそうなるな」

「じゃあN! 膝のニーだ!」

「何で英語に変換、あと膝はK・N・E・EでKな」

「英語なんて絶対無いからな!」

「こっちの台詞だから、もういいよ」

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