モーニングサービス
コーヒーの旨い喫茶店は知らないが、モーニングサービスが良い喫茶店は知っている
最近はそうでもないのだが、名古屋の人間が名古屋圏外へ出張に行ったり引っ越した時、その土地の暮らしでとても驚くことがある。
それはショッピングセンターのフードコートにうどん屋と鰹とんこつのラーメン屋が入居しているぐらいに当たり前の事であって、名古屋でそんな事があれば近隣住民から何かあったのかと心配され、場合によっては警察が確認に行く程の出来事である。
名古屋では幼少時に刷り込まれる常識であり、まさか他の地域がそうなっているとは夢にも思わない衝撃の事実。
名古屋圏外では、喫茶店の開店時間が10時からだ。
この事実は圏外に出た名古屋人を驚愕させ、自分たちの常識が間違っていたという認めたくない現実を突きつける。
『朝から喫茶店がやっていないのならば、一体何処へ行けばいいのか』
家に帰ればいいだけの話だが、名古屋人は朝に喫茶店へ赴くのが習慣になっているので、その喫茶店が朝から開いてないとなると一日を始める事が出来なくなり、日々の生活さえも間々ならない。
これが名古屋の喫茶店の常識であるモーニングサービスの呪い。
名古屋の人間は全ての喫茶店がモーニングサービスをしていると思って疑わないのだ。
モーニングサービスとは喫茶店が開店してからランチタイムまでの時間に行われるサービスの事であり、コーヒーやドリンクを頼むと無料で軽食が付いてくるという物だ。
発祥は昭和30年頃と言われていて、一宮市の喫茶店でコーヒーにゆで卵を付けるサービスが行われたのと、豊橋市の喫茶店で客にパンを提供した事が混ざり、今のようなモーニングサービスの形になったと考えられている。
しかし、コーヒーに何かをサービスで付けるというのは既に大正時代の喫茶店からあったという記録があり、明確にどの店が発祥で何時から行っていたのかという証拠は無い。
元々、お茶屋で抹茶を頼むと和菓子がサービスで付いてくるように、日本では飲み物と軽食を組み合わせけるというのは当たり前の事である。それがコーヒーになっただけど思えば発祥が不明なのは不思議な事ではないだろう。
ちなみに、この時の一宮市のサービスはゆで卵の他にピーナッツを付ける事があったようで、コーヒーにピーナッツや煎り豆のように豆を付けるのも名古屋圏内で常識である。
『コーヒーに豆が付いてこんじゃにぇーか!』
と名古屋圏外の喫茶店で怒る名古屋人が稀に存在するのはこのせいであり、豆とはコーヒー豆の事ではなくピーナッツの事なのだ。
モーニングサービスは飲食店の開いていない時間帯に食事が出来るという事で、出張に来たサラリーマンや早朝から仕事をする労働者の間で人気となった。
そしてどの喫茶店も早朝の客獲得の為にモーニングサービスを行うようになり、名古屋圏民の間で喫茶店ならば行っていて当たり前のサービスだという認識が広まったのだ。
名古屋圏民へのモーニングサービスの普及具合がよく分かる話として、名古屋の格言に『コーヒーの旨い喫茶店は知らないが、モーニングサービスが良い喫茶店は知っている』という物がある。
名古屋の喫茶店はモーニングサービスに拘っていてコーヒーには拘っていないので、誰もコーヒーの美味しい店を知らないという意味だ。
又、多くの喫茶店にはコーヒーチケットと呼ばれるコーヒー10杯分の値段で買える11枚綴りのドリンク専用チケットが有り、このチケットをモーニングサービスの時間帯に使用する事で財布を持たなくてもコーヒーと軽食を食べる事が出来るというサービスもある。
しかも店によっては客のコーヒーチケットを店側で管理している上に、バーのキープボトルのように誰が何枚残っているかを店内のボードに張り出している。他の地域の喫茶店には無い光景だろう。
名古屋の人間にとって喫茶店のモーニングサービスは生活の一つなのだ。
最早モーニングサービスの無い生活など考える事が出来ない。
これは客側だけでなく、喫茶店側もモーニングサービスありきで営業をしている。
モーニングサービスは基本的にはバタートーストとゆで卵がドリンクにサービスで付く物なのだが、店によってはバタートーストをサンドイッチやピザトーストに変更できたり、ゆで卵を目玉焼きやスクランブルエッグに変更出来る。
そして人気の高い店はトーストとゆで卵の他にミニサラダと焼いたベーコンかウインナーを付けたり、飲み物とは別にマグカップでスープを出したりもする。
この時点で既にサービスの範囲を超えていそうな感じがするが、中にはこれ以上のサービスを提供している店もある。
モーニングサービスでご飯と味噌汁と焼き魚の定食を出したり、モーニングサービスで数種類の焼きたてのパンとゆで卵が食べ放題だったり、モーニングサービスでスパゲッティや唐揚げやオムレツが食べ放題だったりと、軽食の定義を疑う店が存在する。
これで価格は380~600円と、ドリンク1杯分の値段しかかからない。とても破格なサービスである。採算は取れているのだろうか。
このように名古屋の喫茶店はモーニングサービスに力を入れており、コーヒーの味やケーキの味は二の次である。
営業時間も朝の7時から始めて夕方には終わるという店が多く、モーニングサービスとランチタイムが終わったら後はやる事が無いと言わんばかりだ。
ビジネス街では逆に夜まで終日モーニングサービスを行っているという店もあり、モーニングサービスとは何なのかを考えさせられる。
これが名古屋の喫茶店の常識であり、モーニングサービスと呼ばれる物なのだ。
名古屋の人間が圏外に出た時、喫茶店が10時からしか開かず、モーニングサービスもやっていないと知った時に驚いてしまう理由を分かって貰えただろうか。
しかし、幸いな事に最近では名古屋のチェーンの喫茶店が全国展開するのに合わせてじわじわと他の地域でも名古屋のやり方をする喫茶店が増えており、他の地域へに行った名古屋人が驚くことも減ってきた。
その理由として、昨今の飲食店の禁煙強化の影響で喫煙者が寛げる場所が減った事と、コンビニやファーストフード店で質の良いコーヒーが安価で飲めるようになった事の二つが考えられる。
名古屋の喫茶店は店内の分煙もしておらず、基本的に喫煙可能である。
これはそもそも客のターゲット層がサラリーマンや労働者だからであり、彼らが煙草を吸う事を前提として店を経営しているのだ。なので禁煙になどしない。
そして名古屋の喫茶店はコーヒーの味で勝負をしていないため、他所で美味しいコーヒーが飲めるからと言って喫茶店に客が来なくなる事が無い。
この二つが理由で他の地域でも名古屋のやり方をする喫茶店が増えており、早朝から営業を始めてモーニングサービスを提供するようになってきた。
まだまだコーヒーに豆を付ける喫茶店は少ないようだが、いずれはコーヒーと一緒にピーナッツを食べる事が世間の常識になるだろう。
名古屋の文化は着実に日本中に広まっている。
日本の文化は東西を二つに分けた関東風か関西風かのどちらかに判断される物ばかりだが、そろそろ日本の真ん中である名古屋を中心とする文化をメインに沿えるべきではないだろうか。
二つに分けているからこそ争いが起きるのであり、一つにまとめてしまえば争う必要はない。
名古屋の喫茶店文化が広まって居る今こそ、名古屋めしを中心とした名古屋文化を広め、日本を一つにするのだ。
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