カレーうどん
名古屋式カレーうどんとはインドのカレーに先祖還りした原点回帰のカレーである
遥か海の向こうのインドで食べられていた香辛料がイギリスに渡り、イギリスでシチュー料理の一つとして改良され、江戸時代終期に日本に渡ってきた料理。
日本に渡ってからも散々改良され、インドの人達から『美味しいね、なんて名前の日本料理なの?』と聞かれるほどに日本の国民食へと変貌を遂げた食べ物。
その名は、カレー。
昔は庶民の憧れの的のデパートや洋食屋のレギュラーメニューで、今でも軽食を出す喫茶店ならばほぼ確実にメニューに載っている。
牛丼屋のチェーンも牛丼と一緒にカレーを提供している店ばかりで、この国の人間でカレーを食べたことの無い人間は居ないと言い切ってもいいだろう。
そんなカレーだが、実は名古屋圏とカレーはとても密接な関係にある。
喫茶店文化によるカレーの普及。
トッピング追加式と量を段階的に増やせれる全国的カレーチェーン店の発祥。
名古屋の中心部から始まったカレー・香辛料専門の大型メーカー。
愛知万博後の外国人経営者の自国料理店の増加による食の多国籍化。
味噌煮込みを始めとする煮込み料理への抵抗感の無さ。
そして、名古屋式カレーうどん。
名古屋式カレーうどんという言葉を聞いた事のある人は少ないだろう。
名古屋圏の人間はそのカレーうどんが普通のカレーうどんだと思っているし、それ以外の地域の人間はそもそも存在を知らない。
大まかに説明をするのならば、名古屋式カレーうどんとはインドのカレーに先祖還りした原点回帰のカレーである。
まずは確認がてら、一般的なカレーうどんについて説明しよう。
カレーうどんとは読んで字の如く、カレーとうどんを合わせた料理だ。
今でこそカレーと言えばカレーライスを連想するが、大正時代ではご飯でカレーを食べるカレーライスよりも、うどんでカレーを食べるカレーうどんのほうが人気な事もあったらしい。
当時の呼び方は『カレー南蛮うどん』で、元々は蕎麦料理のカレー南蛮蕎麦から来ている。その麺を蕎麦からうどんにしたのがカレーうどんの始まりだ。
当時のカレー南蛮の作り方は単純で、めんつゆにカレー粉を溶き、片栗粉でとろみをつけ、カレーを麺にかけてから上に刻んだ葱を乗せたいうシンプルな物だ。
現在の作り方もこの方法を参考にしていて、カレーを濃く作った後に鰹出汁で延ばし、片栗粉でとろみを付けてから麺にかけている。
基本的にカレーうどんと言えばカレーを出汁で割り、片栗粉であんにしてうどんにかける物で間違いない。
次は名古屋式カレーうどんについて説明しよう。
名古屋式カレーうどんは昭和後期に産まれた比較的新しい名古屋めしで、最大の特徴としてチキンカレーな事が挙げられる。
カレーと言えばビーフカレーかポークカレーが基本だが、名古屋式カレーうどんのカレーは鶏がらスープがベースだ。
その鶏がらスープに複数の香辛料を入れて辛味と香りを出し、魚介スープで濃度を調整する。
とろみを出すには片栗粉ではなく小麦粉を使う。そうする事で片栗粉の撥ねやすいあんかけのカレーではなく、どろりとして下に垂れる撥ね難いカレーになる。
そして麺は普通のうどんよりも太くコシの強い物を使う。
これはうどんの味がカレーに負けないようにするためと、いつまでも熱いカレーで麺がふやけるのを防ぐためである。
具は葱、蒲鉾、油揚げを使用する。後から乗せるのではなく、一人前のカレーを小鍋で温める時に一緒に入れて煮込む方式だ。
この二つのカレーうどんを見比べれば、全然違う別物という事が分かるだろう。
同じカレーうどんという名前でも味も香りも全く違う。
一般的なカレーうどんは日本で独自発展したカレーの終着点のとして正しい物だろう。
インドで様々な料理に使われていた香辛料を元に、イギリスが手軽にシチューに出来るようにとカレー粉に纏め、それを日本が水ではなくめんつゆで溶いて作ったカレー。
イギリスでイギリスの食文化に合うように改良され、日本でも日本の食文化に合うように改良をしたのだ。これ以上の日本の食文化に合わせた改良は出来ないと思われる。
だが、名古屋式カレーうどん独自発展ではなく、原点回帰したカレーだ。
予め合わせられたカレー粉を使うのではなく、インドのように香辛料を組み合わせて使う。
スープには牛や豚ではなく、インドでも使われている鶏ガラを使う。
そして極めつけは小麦粉。当たり前すぎて気付かないだろうが、インドに片栗粉は無い。
字からして栗の粉だと思う人も居るだろうが、これは片栗という百合の根っこを粉にした物で、インドはおろか世界的煮見ると存在しない地域のほうが多い。
そしてこれは少しこじつけだが、カレーうどんの太くコシのある麺はインド料理のナンに近い部分もあるように思える。
以上の事から、名古屋式カレーうどんはイギリス式のカレーを遡り、インドのカレーに先祖還りをしていると言えるのだ。
その香りと辛さは一般的なカレーうどんとは比べ物にならず、なによりも汁が跳ね難いので昼ごはんに食べてもワイシャツやブラウスのシミになり難い。
又、名古屋式カレーはカレーの色を黄色にするために香辛料の一つのターメリックを多く使用しているので、なんと飲酒後のシメとして最適なのだ。
ターメリックとはうこんの事だ。うこんは二日酔いを防ぐ効果で有名で、専用の栄養ドリンクもある社会人の救世主だ。
美味しいだけでなく、香辛料の力で健康になってしまう麺料理。
それが名古屋式カレーうどんなのだ。名古屋で飲んだ夜は是非ともカレーうどんで〆るべきだろう。
余談だが、最近では豊橋が名古屋めしに対抗するつもりか『豊橋カレーうどん』という物を出している。
しかし、豊橋カレーうどんはうどんと言いながらも、うどんの器の底にご飯ととろろが詰まっていて、その上にカレーうどんを乗せている。
カレーうどんを食べ終わった後にカレーが残っているのが勿体無いという事で予めご飯を詰めておくらしいのだが、それはカレーうどんではなくてカレーうどん丼ではないだろうか。
具にうずらの卵を使用するのが絶対に必要らしいが、茹でた物ではなく出汁巻き玉子や目玉焼きにしてもいいらしく、ルールがよく分からない。
豊橋からは『豊橋カレーうどんは名古屋めしに含めないでくれ』と言われているが、名古屋人で豊橋カレーうどんを名古屋めしに含めようと考えている者は居ない。少し自意識過剰だと思う。
まあ、味は悪く無いのだが、カレーうどんにご飯をセットで付けるのでは駄目だったのだろうか?
豊橋カレーうどんの考案者に聞いてみたいものだ。
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