ベトコンラーメン
ベトコンラーメンと二郎系ラーメンは従兄弟のような存在と言えるだろう
最近のラーメン業界は二郎系ラーメンと呼ばれるラーメンが流行っている。
二郎系ラーメンとは、とんこつ醤油の濃いスープのラーメンの上に温野菜とチャーシューを乗せ、更にその上からにんにくや背脂をかけた味の濃い醤油ラーメンである。
一番の特徴は無料のサービスで上に載せる野菜やにんにくや背脂や追加の醤油タレの量を増やせるという事で、その無料サービスの量を決める際の独特な呪文のような注文の仕方がインターネットで爆発的に広がった事と、手頃な値段で大盛りの野菜のラーメンが食べられるという事が人気になった理由だ。
実際に食べてみるとどこにでもありそうな感じの味のラーメンだが、大量の脂と濃い醤油によって味覚が限界ギリギリまで圧迫されて『これは美味しい物だ!』と、脳と体が洗脳され、気が付くと週一で通ってしまう程の中毒性がある。
中には毎日二郎系ラーメンを食べるという重度の中毒者も存在し、彼らは自らの寿命を二郎系ラーメンに捧げて生きている。
頻繁に大量の脂肪分と塩分を摂取するのは体に悪い行為なのだが、どうも脂肪分と塩分の組み合わせは脳が幸福感を覚えるらしく、フライドポテトやピザが美味しく感じるのはこのせいらしい。
普段の生活に疲れている者程、こうした脂肪分と塩分の高いハイカロリー食を求めるようになるのだとか。
私は食べる気は起きないが、バターフライがその最長点に存在する食べ物らしい……
今ではこの二郎系ラーメンはどの地域にも一店舗はある物となっており、ここ名古屋でも数店舗存在する。
ただのインスパイアな店舗もあれば、系列店で修行した人が出店したという本格的な店舗もあり、様々な二郎系ラーメンがある。
東京で流行った物が二年遅れで入ってくるのが名古屋の常識だが、二郎系ラーメンの流行に関しては比較的早く名古屋に入ってきた。
それもそのはずだ。
名古屋の人間にとって、二郎系ラーメンのような野菜が盛られたラーメンというのはさして珍しい存在では無い。
何故ならば、名古屋には二郎系ラーメンと似て非なる、ベトコンラーメンという野菜が載ったラーメンが存在するからである。
ベトコンラーメンとは正式名称をベストコンディションラーメンと呼ぶ、ニラもやし炒めを利用して作る野菜たっぷりのラーメンの事だ。
ベトコンラーメンの始まりは奇遇にも二郎系ラーメンと同じく1960年代後半であり、正確にどちらが先という事は無い。
しかし、どちらも中華料理の湯麺という料理から発想を得たのではないかと考えられているため、ベトコンラーメンと二郎系ラーメンは従兄弟のような存在と言えるだろう。
二郎系ラーメンはラーメンの上に具を乗せる形だが、ベトコンラーメンはにんにくと唐辛子でニラ、長ネギ、もやしを炒め、そこに鶏ガラスープを入れてさっと煮込み、茹でた麺の上に注ぐという作り方をする。
この作り方ならば野菜にしっかりと味が付くので上から醤油タレをかける必要が無く、スープも野菜の旨味と唐辛子の辛さが移るので背脂を足さないでもしっかりとした存在感を感じさせる事が出来る。
にんにくもニラも長ネギも体の調子を整える効果があり、それを栄養のある温かい鶏ガラスープで食べる事で
どの野菜も細長くて麺と一緒に啜ることが出来るのも特徴で、ベトコンラーメンの麺は細麺ながらも野菜の食感が加わって食べ応えがある。
ベトコンラーメンは二郎系ラーメン見た目は似ているが、味は全然違う物で、野菜をメインにしつつも満足感のあるヘルシーなラーメンなのだ。
この、『野菜炒めをスープで煮込む』というベトコンラーメンの作り方は他のラーメンと比べても独特で、全国的に見ても珍しい。
似たようなラーメンが奈良、横浜、埼玉にあるらしいが、どれもラーメンに野菜炒めをそのまま乗せるか、あんかけにして乗せるだけであり、野菜炒めをスープで煮込むということはしない。
ラーメンの種類は日本中に沢山存在するが、こうして一杯一杯スープに手間を掛けて完成させるラーメンというのは他に類を見ないのだ。
まさに、名古屋圏独特の食べ物の集まりである、名古屋めしに相応しいラーメンであろう。
だが、ベトコンラーメンは注文が入る度に野菜炒めを作る事になるので、普通のラーメンよりも手間がかかって料理人への負担が強い。
ベトコンラーメンは作るのは簡単なのだが、その負担が理由で提供する店舗が少ないのが問題だ。
過去に近所にベトコンラーメンの店が出来た事があるが、繁盛していたのに一年で潰れてしまったという事がある。
ラーメンでありながら手軽に野菜が取れるのでランチタイムに大変繁盛していたのだが、ニラもやし炒めの作りすぎで店長が腱鞘炎になってしまい、これ以上続けられないと判断しての閉店だったらしい。
美味しかっただけに本当に残念だ。
二郎系ラーメンはインスパイア店が気軽に始められるのに、ベトコンラーメンの店はこれが理由で中々増えないし、増えても個人店だと寿命が短い。
一部の中華料理屋が湯麺の替わりにベトコンラーメンを出している事があるが、折角の中華料理でラーメンを注文する者は少なく、中華料理屋なのに『ベトコンラーメン』という名前のメニューは頼み難いという意見が合ったのか名前を変えてしまっている店もある。
是非とも名古屋めしの関係者達はこの問題を解決して、ベトコンラーメンを提供する店舗を増やして欲しい。
折角の手軽に美味しい名物のベトコンラーメン。このまま埋もれさせるには惜しすぎる。
何かいい方法はないだろうか。二郎系ラーメンに匹敵するポテンシャルはあるはずなのだ。
食べる人をベストコンディションにするが、作る人は腱鞘炎にさせてしまう。
なんとも危険なラーメン。それがベトコンラーメンなのだ。
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