大あんまき
大あんまきは、チーズ入りの物とカスタード入りの物が革新的に美味しい!
見た目は細長い筒状のどら焼き。
皮は薄いホットケーキの様で、断面図は楕円形。
中は餡子がぎっしり詰まっていて、一つでも満足感たっぷり。
さあ、一体これはなんだと思う?
名古屋周辺の主要な駅やパーキングエリア・サービスエリアを利用した事のある者なら、食べた事は無くても一度は見かけた事があるだろう。
簡素な台に透明なケースを乗せた屋台で売っている、黄色いのれんに赤い文字で書かれた『大あんまき』というこの地方独特の和菓子の事だ。
大あんまきの歴史は古く、始まりは江戸時代だと言われている。
現在の愛知県知立市である東海道39番目の宿場の
実際に近くに遍照院という弘法大使所縁のお寺があるが、900年ほど年代が合わないので流石に弘法大使云々は真実ではないだろう。
まさかとは思うが900年も生きる人間など居るわけがない。東海道を渡る人々から信仰を得るための方便として使われたのだと思われる。
しかし、
何故、大あんまきは大福や餅のような米粉で作る皮ではなく、小麦粉で作る皮で餡子を包んでいるのか。
これは当時の
知立市を含む現在の西三河地方は、明治用水と呼ばれる農業・工業用の用水路が通されており、過去に『日本デンマーク』と呼ばれた事もあるほどの優良農業地帯だ。
しかし、その明治用水が通される以前は水の通りがとても悪く、大量に水を使用する水田を作る事が出来なかった。
そのため、当時の三河地域は米に比べて少ない水で作れる小麦が主な生産物となり、小麦粉を使用した食品をいくつも考案してきたのだ。
又、この辺りは古来より小豆を薬として扱っており、餡子に塩を多めに加えて煮た塩餡は疲労回復と滋養強壮に効くとされていた。
大あんまきの元になった食べ物が塩餡を使っているのはこれが理由だと思われる。
他にも組み合わせる素材や加工の仕方によって小豆は解熱剤や解毒剤や失語症に効く薬になるとされていて、中には腋臭にも効く塗り薬としても活用されていたらしい。
ここからは予想なのだが、その塩餡を東海道を渡る人に振舞う際、餡子のままだと手が汚れるからと小麦粉を焼いた物で包んだのではないだろうか。
名前が『大あんまき』と餡子が先に来ている事からして、大あんまきの主役は餡子の部分だと考えられれる。
同じような素材で作るどら焼きや今川焼き(この辺りでは『東海道』や『大判焼き』と呼ばれている)と比べて餡子の量が段違いに多いのもその事実の裏付けになるだろう。
大あんまきは見た目からして簡単な作りの食べ物に思えるが、その実、とても歴史のある食べ物なのだ。
他にも東海道の宿場町にはそれぞれに名物や銘菓があるので、気になった人は調べてみると面白い事実に気付くだろう。
と、これで大あんまきがどのような物かというのは想像が付いたと思う。
無駄に歴史を語って名古屋圏の餡子の伝統的な食べ方の大あんまきという物について知って貰ったが、私が一番に伝えたいのは大あんまきは餡子だけではないという事だ。
大あんまきは、チーズ入りの物とカスタード入りの物が革新的に美味しい!
もう一度言おう。
大あんまきは、チーズ入りの物とカスタード入りの物が革新的に美味しい!!
私は駅の屋台で売っていたチーズ大あんまきとカスタード代あんまきを食べ、今までの和菓子の常識が覆るような思いをした。
大あんまきの種類として、白いんげん豆で作った白餡の大あんまき、抹茶餡を入れた抹茶の大あんまき、変り種の天ぷら大あんまきという物は知っていた。
だが、餡子とクリームチーズ、餡子とカスタードクリームの組み合わせなど聞いた事も見た事もなかった。
生クリームやソフトクリームならば知っているが、クリームチーズとカスタードクリームだ。
一体どんな味がするのか全く予想が出来なかった。
だからこそ見かけた時に即座に購入して食べたのだが、これが本当に美味しかった。
クリームチーズ大あんまきを例えるならば、それは澄み渡った青い空に爽やかな風の吹く広い草原の中の大きな家だ。
餡子のどっしりとした力強さを感じさせる食感をクリームチーズの濃厚な舌触りが優しく包み込み、スルリと歯の間を通り抜けて優しく口内に広げる。
餡子は作る時に少量の塩を入れて甘さを際立たせると言うが、それはクリームチーズも同じだ。クリームチーズに含まれる塩分がクリームチーズの脂肪分の甘さを際立たせるのだ。
口内に広がる餡子とクリームチーズは蕩け合い、お互いの甘さとお互いのしょっぱさで効果を合算で相乗させ、別々に食べた時の数倍もの甘味と旨味を引き出す。
爽やかに駆け抜ける中にまるでそこにあるのが自然かのように急に現れ、得も言われぬ幸福感だけを残す存在。それがクリームチーズ大あんまきだ。
カスタードクリーム大あんまきを例えるならば、それは荒野を力強く走る蒸気機関車だ。
餡子の甘さとカスタードクリームの甘さ、この二つが同時にガツンと殴りかかってくる純粋な甘さの暴力。
それぞれの甘さが混ざり合わずに独立して主張してくるのだが、その甘さを小麦粉の皮が抑え込み、単なる甘味の暴走では無く、一本のまっすぐな筋道の通った気持ちの良い甘さに仕立て上げる。
どちらも甘い、どちらも強い。
ならば、その二つを相反ではなく共存させる事が出来れば、より甘く、より強くなるのではないだろうか。誰もが一度は考える夢物語。これは、その夢の終着駅。
餡子とカスタードという二本の異なるレールを、どちらも曲げることなくどこまでも平行させて一つの存在として完成させた物。それがカスタードクリーム大あんまきだ。
この二つの大あんまきは和菓子の新しい形としてとてつもない可能性を持っている。
普通の大あんまきでも十分に美味しいのだが、是非とも一度はクリームチーズ大あんまきとカスタードクリーム大あんまきを食べてみてほしい。
大あんまきは単なる和菓子ではなく、深い歴史があり、これから先の未来を担う事も期待される素晴らしい食べ物だ。
必ずや、この大あんまきを食べた人に感動を与え、その素晴らしき出来映えに涙する事だろう。
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