香露、えびおろし

香露とえびおろし、名古屋はこんなにも素晴らしいうどんがある

うどん。

それは小麦粉と塩を水で練り、少し寝かせてから細長く切って茹でた物。

遥か昔に中国から日本に伝わった料理で、現在では各地でいくつものご当地うどんが作られている麺類の王様。

柔らかく茹でたうどんは離乳食にもなるらしく、おかゆよりも先にうどんを食べて育った人も居るとか居ないとか。


うどんは今や日本の国民食ともなるほどに全国に広まったが、中でも四国にある香川県はうどんの事でとても有名だろう。

香川県は日本のうどん消費量一位を誇り、県民は毎日うどんを食べて生活している。

県内の飲食店はうどん屋で溢れ、うどん関連以外の飲食店は例え全国規模のチェーン店でも中々根付かない。

中にはうどん屋ではなく製麺所に丼を直接持って行き、その場で購入した製麺したてのうどんを食べる人も大勢居ると聞く。

そのため、各地の製麺所はうどんの販売所に茹で場とめんつゆ置き場を併設するのが当たり前となっていて、製麺所の敷地内は立ったままうどんを啜る人達で溢れている。

他にも香川県では余ったうどんをエネルギーに替える研究や、うどんを使った世界平和の研究も行っているらしく、ただうどんを食べるだけで終わらせていない所が素晴らしい。

名実共に香川県はうどん県と呼ばれても間違いない地域だろう。


しかし、日常的にうどんを食べるのは香川県の専売特許というわけではなく、実は愛知県もよくうどんを食べる地域である。

中でもうどん・そばの外食費は毎年トップ10の常連であり、上位に食い込む年もある。

愛知県民がうどんを良く食べているは、味噌煮込みうどん、名古屋式カレーうどん、きしめんと、名古屋めしにうどんの派生料理がある事からも納得できるだろう。

だが、味噌煮込みやカレーにようにめんつゆを替えた物ではなく、きしめんのように麺の形を替えた物でもなく、うどんそのままで他の地域には無い名古屋だけのご当地うどんもある。


まず一つ目が、香露ころ

そして二つ目が、香露ころから産まれし、えびおろし。


どちらも名古屋圏では当たり前のうどんであり、メニューに載ってないうどん屋は無い。


香露ころの特徴はうどんもめんつゆも冷たい事と、上に葱や生姜等の薬味をかけている事。

麺は少し太め。茹でてから水で締めた物を使うのでやや固めでコシが有り、太さと相まって食べ応えがある。

香川県で食べられているぶっかけうどんとほぼ同じ物だが、たまり醤油を使っているので醤油の色と味が強く、ぶっかけうどんのめんつゆよりもコクと甘味がある。


元々はうどん屋の賄いだったが、この食べ方が一番うどんの麺を美味しく食べる方法だと広まり、名古屋のうどん通の間で話題になったと言う。

実際に冷たいうどんは製麺時の練り、捏ね、揉みがしっかりしていないと表面がぼそぼそとし、食感が悪くなる。

これは温かいうどんにすれば誤魔化しが効くのだが、冷たいままでつるんとした食感を出すには高い技術が必要なのだ。

そのため、うどん屋の製麺レベルを確かめるのなら冷たい香露ころうどんを注文するのが良いとされるようになり、逆に香露ころうどんを出せない店はうどん屋としていまいちだという扱いをされている。


又、暑い夏は冷たい香露ころうどんが体に良い。

これは消化しやすいうどん、消毒効果のある薬味、ミネラルと塩分を補給できるめんつゆ、の三つの合わさった香露ころうどんが夏バテに効果があるからだ。

特にめんつゆは汗を書いた後の水分補給に向いており、和製のスポーツドリンクとも言える。



えびおろしの特徴は香露ころの上に海老の天ぷらが乗っている事と、大根おろしが載っている事と、平たい器で提供される事。

香露ころを改良した物であり、ボリュームのある大きな海老の天ぷらと消化に良い大根おろしが載っている。

これらが平たい器に載って提供されるため、名古屋圏で『皿うどん』と言えば九州の野菜炒めをかけた堅焼きそばの事ではなく、えびおろしうどんの事をイメージする人が多い。


このえびおろし、発祥は夜の街であり、そこで働く人達のために考えられた物である。

夜の街にある飲食店は基本的に値段の高い店が多く、勤務後ともなると殆どの店が閉まっていて寿司屋ぐらいしか行く場所が無かったらしい。

そんな中、繁華街内に店を構えるうどん屋が勤務後の疲れた体でも食べられるようにと香露ころうどんに大根おろしを載せ、手早く食べられるようにと別皿で出していた海老の天ぷらを上に載せたらしい。

寿司屋で食事するよりも安く、そして直ぐに食べて帰宅できるという事でえびおろしは大人気となり、他のうどん屋もこぞって真似をしだしたと言われている。

ちなみに、この店は今でも平日は深夜まで営業しており、今でも繁華街の人達の夕食と言えばえびおろしだ。


えびおろしに付いてしまっている皿のイメージだが、実は発祥の店の丼は平たいと言っても丼の形を残しているので皿っぽさは無い。

これは他の店がえびおろしを真似をするうちに段々と丼が平たくされていったのではないかと考えられている。

中でも大型スーパーのフードコートに入っているうどん屋は必ずと言っていい程平たい皿でえびおろしを提供しているので、幼い頃からこのえびおろしを見続けた名古屋人は『えびおろしと言えば皿』というイメージが植えつけられる。

母親と大型スーパーに買い物に行く度に、えびおろしは皿のうどんだと洗脳されるのだ。




尚、先ほどから説明中に『香露ころ』と『香露ころうどん』を分けて書いているが、これには理由がある。


名古屋めしについて知っていれば気付くだろうが、香露ころには勿論、『香露ころきしめん』もある。

香露ころときしめんは別々の名古屋めしだが、冷たい麺のつるつる感を味わう事の出来る香露ころはきしめんとの相性が抜群に良い。


冷たいながらも醤油の味のしっかりとした濃いめんつゆで、葱と生姜だけの最低限の薬味の風味を付け、幅広でつるんとした冷たいきしめんた噛まずに飲むようにして食べる。

太さはあるが厚みがないので詰まらずに喉を駆け抜けるきしめんの食感と、アクセントとなる葱の粒々感と生姜のざらざら感。そして汗を掻いた体が求めるめんつゆ。

舌で感じずに、喉で感じる美味しさ。

普通のうどんでは感じられない刺激に喉が震え、ゴクンと歓喜の声を挙げる。


香露ころきしめんはうどんの食感を楽しむ極地と言えるだろう。

この香露ころきしめんを食べずにうどん通を名乗るのは勿体無い。


又、『香露ころきしめん』があるのなら、当然『えびおろしきしめん』もある。

麺を喉で味わうだけでなく、天ぷらの衣のさくさく感と、めんつゆのかかった部分のしなっとした食感。そして海老のぷりぷり感の三つの食感を歯で楽しむ。

冷たいめんつゆに天ぷらは消化が悪い物だが、それを大根おろしがカバーしてくれ、めんつゆと相まって更なる食感やのどごしを与えてくれる。

えびおろしきしめんは舌と喉だけでなく、歯でも美味しさを感じられる料理であるのだ。


このように、愛知県は香川県に勝るとも劣らないうどんに対しての歴史と思い入れがある。

名古屋めしにうどん類がいくつかあるのに加え、香露ころきしめんという最高の食感のうどん料理を携えているのだ。

これはもう、第二のうどん県と呼んでもいいのではないだろうか。

一位は香川県に譲るが愛知県もうどん県として売り出し、名古屋めしならぬ名古屋うどんを世に広めるべきだろう。


香露ころとえびおろし、名古屋はこんなにも素晴らしいうどんがある。

それを広め、みんなに食べて貰おう。

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