鬼まんじゅう

さつま芋と言えば、石焼芋よりも、スイートポテトよりも、鬼まんじゅう

最近では少なくなってしまったが、寒くなると必ずと言っていい程に現れる軽トラックを改造した冬の風物詩の石焼芋。

最近は軽トラだけでなくバンを改造したオシャレな販売車も見かける事があり、中には高級車を改造した派手な販売車もあるとの噂だ。

元々は石炭のストーブを付けたリヤカーに石を敷き詰め、石の中にさつま芋を入れて蒸し焼きにしていた移動販売車の始まりらしい。

石焼芋の始まりはさつま芋が一般的になった江戸時代後期だが、当時は土鍋や焙烙で作られる蒸し焼き芋だったらしく、石焼芋よりも甘味が強く瑞々しい食べ物だったとされている。

それが石焼芋になったのは土鍋や焙烙が割れる心配が無いのと、石焼のほうが大量調理が可能だからである。

特に戦後はリヤカーと簡単なストーブと石さえあれば作れるという事で石焼芋の移動販売車が増え、石焼芋は全国に広まった。


さつま芋は飢饉対策のために米の替わりになる食べ物として江戸時代に広まった物だが、いつの間にか間食として扱われるようになり、今ではケーキやアイスにも使われるスイーツの材料の一つとなった。


さつま芋を蒸してから裏漉しし、砂糖、牛乳、バターを混ぜてから成型して表面を焼いたスイートポテトは誰もが知っているお菓子だろう。

作り方は簡単なのに甘くて美味しい。特に温かいスイートポテトにバニラアイスを添えてこたつに入りながら食べるのは至福だ。

スイートポテトとバニラアイスなのでどう見ても洋菓子だが、上から黒蜜をかけると途端に和菓子っぽくなるのも良い。

ちなみにスイートポテトは日本産洋菓子らしく、栗金団を参考にした物ではないかと言われている。詳しい資料が何も無いので詳細は定かでは無いが。

そもそも、さつま芋の英訳がスイートポテトなのだからお菓子の名前としてはおかしい部分がある。


このスイートポテトが広まったのは明治時代らしいのだが、名古屋にはスイートポテトが出来る何年も前からさつま芋を使ったお菓子が存在する。



それは恐怖の象徴でもあった鬼の名を冠するお菓子。

鬼まんじゅうと呼ばれる、恐らく日本最古のさつま芋のお菓子であり、この世で一番さつま芋の魅力を引き出しているであろう食べ物だ。



鬼まんじゅうの作り方はシンプルながらも奥深い。

まずはさつま芋を洗って皮を剥き、適度な大きさの角切りにする。

凡そ1~2cm程の大きさにすればいいが、さつま芋の食感を楽しみたいのなら大きく、子供やお年寄りにも食べやすいようにするのなら小さくすれば良い。

そして角切りにしたさつま芋を容器に入れ、上からさつま芋の半分~四分の一程の量の砂糖と塩を一つまみふりかける。

そして暫く待つ。だいたい30分ぐらい。

すると、さつま芋から水分が出てきて砂糖と混じってシロップ状になり、さつま芋がそのシロップに浸っている状態になる。

ここに上新粉か小麦粉を入れてよく捏ね合わせる。さつま芋を潰さないように力加減には気をつけて欲しい。

粉の量はさつま芋の半分ぐらいでいいが、練り合わせた生地の柔らかさを見て増やしたり減らしたりする。

後は適当な大きさに丸めて蒸し器で蒸すだけだ。

大きさにもよるが、だいたい20分ほど蒸せばさつま芋が柔らかくなるので完成だ。心配ならさつま芋に竹串を刺して確認しよう。

この時、蒸した後の形が角切りのさつま芋でゴツゴツしている事から、鬼の金棒に見立てて鬼まんじゅうと呼ばれている。


作り方を纏めると、

・さつま芋を角切りにする

・砂糖と塩を振り掛ける

・時間を置いて水分が出てきたら上新粉か小麦粉を入れて練り合わせる

・適度な大きさにして蒸す

これだけだ。


手順も材料も少なくて簡単だが、

浸透圧を利用してさつま芋から水分を抜く事、

そのさつま芋から出た水分を利用して生地を作る事、

水分が抜けて組織が崩れたさつま芋を蒸し、再度組織の中に水分を吸わせる事で以前よりも柔らかい状態の芋として戻す事、

と、何気に高度な調理法をしている。


こうして作られる鬼まんじゅうのさつま芋は硬めのゼリーのようなぷりぷりとした食感をしつつも、味はほぼさつま芋のままで、しっかりとしたさつま芋感を感じられる。

まるで一本500円もする高級なさつま芋を蒸したかのような味と食感になっており、石焼芋やスイートポテトにも劣らない上品な甘さと舌触りをもたらす。

生地部分もさつま芋から出た水分で作っているのでさつま芋部分と喧嘩せず、さつま芋の味がする黄みがかかった柔らかい餅のようになっている。

優しい歯ごたえと上品な味のする角切りのさつま芋と、もちもちとしてさつま芋の風味がする生地の組み合わせは食感的にも相性が良く、特別な物を使用していないのにも拘らず見た目と名前以外は西洋のスイーツに匹敵する存在となる。

そう、見た目と名前以外は。

英語にすると『Ogre Ten thousand Head』だ。食べ物ではなく化け物だな。



これが恐らく日本最古のさつま芋のお菓子であり、この世で一番さつま芋の魅力を引き出しているであろう食べ物の鬼まんじゅうである。


この鬼まんじゅうが全国区でないと聞いた時は驚いたものだ。

東海では小学校や幼稚園の給食で鬼まんじゅうが出る事があり、鬼まんじゅうを知らない人は居ないと言ってもいいだろう。

ただ、給食の鬼まんじゅうは幼い子供でも食べやすいようにベーキングパウダーを混ぜて蒸しパン形式にしているので、そっちのほうが有名かもしれない。

他にも牛乳やみかんを混ぜて子供向けにした鬼まんじゅうや、さつま芋を皮付きのまま作ったり黒砂糖を使ったやや苦味を感じる大人向けの鬼まんじゅうもある。

最近ではチョコを混ぜたチョコ鬼まんじゅうや、紫イモを使った紫鬼まんじゅうや、さつま芋をりんごに変えたりんご鬼まんじゅうなんかもある。


これらの変り種があっても鬼まんじゅうは鬼まんじゅうなので、冬のスイーツ特集等でスイートポテトが挙がるのは『みんな鬼まんじゅうに飽きたんだな』と思っていたのだが、まさか鬼まんじゅうの存在その物の知名度が低いとは。

こんなにも簡単に作れて美味しいお菓子なのに、全国区になっていないのは惜しい。

添加物がほぼ無いので幼児のおやつに向いているし、ビタミンCや食物繊維が豊富なので大人が食べるおやつとしても適している。

値段と作り方と味と栄養を考えると、これ程までにコストパフォーマンスの良いおやつは他に無いだろう。


ちなみに、名古屋では一部地域で行政がオリジナル鬼まんじゅうを作るコンテストを開催している

毎年工夫を凝らした鬼まんじゅうが発表されているが、基本は鬼まんじゅうなので味は鬼まんじゅうだ。

それでも毎年開催されているという事は、それ程までに鬼まんじゅうが広く一般化されており、家庭によってオリジナルの鬼まんじゅうがあるからだろう。


作り方は簡単なのにとても美味しい鬼まんじゅう。

これを機に一度作ってみては如何だろうか?

上手くできたら次は各自の地元の名産を使ったオリジナルの鬼まんじゅうを考えてみるといい。

そして、ご当地鬼まんじゅうを集めた全国鬼まんじゅうコンテストを開き、鬼まんじゅうの名を全国に轟かせるのだ。


さつま芋と言えば、石焼芋よりも、スイートポテトよりも、鬼まんじゅう。

それを合言葉に、鬼まんじゅうの知名度を上げて行こう。

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