お好み焼き

名古屋式お好み焼きをスタンダードとして世に広めるべきだ

主な成分が炭水化物のように思えて、実はほぼキャベツで出来ている。

具に肉や卵を使用しているが、量は少ないので思ったよりカロリーは少ない。

そして全体的に食物繊維が豊富で女性にも嬉しい。

そんな日本の下町鉄板おやつの代表格。


お好みに、焼くと繋げて、お好み焼き(字余り)


お祭りの屋台の定番であり、鉄板焼きと言えばステーキハウスや浜焼きよりも先にこちらが思い浮かぶ人も多いはずだ。

その知名度は高く、お好み焼きを知らない日本人は居ないといってもいいだろう。

そして、逆に外国人に説明する時にほぼ必ずと言っていい程に翻訳に困る食べ物だ。



お好み焼きの始まりは東京の銀座からであり、元々は個室で食べられていたお座敷料理だったとされている。

当時の銀座のお好み焼きは個室に備え付けられた鉄板を使って客が食べ物を自分の『好み』に焼く風流な遊戯料理とされていて、今のような小麦粉やキャベツを使ったお好み焼きとは違う物だった。

何故、銀座で始まったのか。又、お座敷の遊戯料理とは何か。という部分の説明はしない。理由は察して欲しい。詳しく説明すると少々如何わしい内容になるのだ。

そして銀座で流行った個室お好み焼き屋だが、明治の始めに起きたとある国際裁判の影響によるお座敷の規制と、戦争で食料規制が起きた事の二つが原因で閉店に追い込まれ、東京のお好み焼き文化は廃れてしまう。


ここで一度途絶えたお好み焼きの文化だが、その後、東海道を越えた戦後の大阪で復活する事になる。


食糧難だった戦後、大阪の闇市では米が高価だった替わりに小麦粉がそれなりに安価で大量に出回っていたらしい。

それでも芋よりは高かったのだが、芋よりも加工しやすいという事と、粉の状態なら日持ちもして場所を取らないという事で人気製品となる。

特に小麦粉から作られるパンやうどんやお好み焼きの人気は高く、中でもお好み焼きはパンやうどんのように手間がかからず、小麦粉と適当な野菜があれば作れるので急速に関西の飲食店に浸透した。

最初は店員が焼いていたのだが、銀座の個室お好み焼き屋のように客に焼かせたほうが効率が良いと気付いた人が居たらしく、それで水に溶いた小麦粉に具材を入れて焼く料理をお好み焼きと呼ぶようになったと言われている。

それまでは主に葱が具材だったので、葱焼きと呼ばれる事が多かったらしい。

そして、戦後の食糧増産と食の洋風化によって生産量が極端に増えたキャベツを使用することが段々とお好み焼きのスタンダードとなり、今のようなお好み焼きの原型となった。

今では個室のほうが珍しくなったが、こうして客が鉄板を使って自分の好みに焼くという料理のお好み焼きは復活を遂げたのだ。


この辺りの話は当時の資料が殆ど残っていないので細かい部分は実際の話と違うかもしれないが、おおまかにお好み焼きの名前の由来と戦後に関西に広まったという部分だけ覚えてもらえば良い。



そんなお好み焼きだが、現在は大きく分けて二つの種類があるとされている。

関西風のお好み焼きと、広島風のお好み焼きだ。

どちらも小麦粉を水や出汁で溶いたタネを使ってキャベツや豚肉を具にする部分は同じだが、作り方に大幅な違いがある。


関西風と呼ばれる物は小麦粉のタネに具材を混ぜ合わせる混ぜ焼きタイプ。

これは客に自分の好みの焼き加減で焼いてもらう際、最初から全てを混ぜ合わせておくことで味の均一化を計るのと、後は焼くだけという失敗をしにくい状態にしている為だ。

最近では『店員に焼いてもらったほうが失敗しなくて良い』との理由で店員が焼く店のほうが主流らしいが、それでも混ぜ焼きタイプのほうが多いらしい。

具は最初から混ぜるのを前提としているので小さくて細かい物を使い、生地にふわふわ感を出すため摩り下ろした山芋が入っている事が多い。


広島風と呼ばれる物は小麦粉のタネを鉄板の上に薄く円状に広げてから具材を載せて焼く載せ焼きタイプ。

載せ焼きとは言うが、実際は生地に具を乗せてからひっくり返して蒸し焼きにする作り方だ。

これは大正時代に駄菓子屋にあった下町鉄板おやつの一つである『洋食』と呼ばれる物が元だと考えられている。

『洋食』は水に溶いた小麦粉を鉄板で焼き、上に葱やわずかな肉を乗せてソースを塗ったというシンプルな物で、値段も安かったそうだ。

大阪のお好み焼きの廉価版の洋食が進化して出来た物が広島風お好み焼きなので、お好み焼きと言えばお好み焼きだが違うと言えば違うとも言える。


地域によって中に入れる具っが変わったり、生地が堅かったり柔らかかったりで違いが有るが、概ねお好み焼きはこの二つに分類される。


しかし、名古屋には広島風でありながら関西風の特徴も併せ持ち、独自発展した名古屋式お好み焼きという物がる。


名古屋式お好み焼きの基本は広島風だ。

まず最初に生地を鉄板に流して丸く焼き、その上にキャベツや肉を乗せる。

これだけだと普通の広島風の作り方だが、なんとここからひっくり返す前にひっくり返す。

こうする事で具の隙間に生地が流れ込み、まるで関西風の混ぜ焼きのようにふわふわした食感が産まれる。

ひっくり返してからは上から叩いて形を整え、もう一度ひっくり返してからソースを塗り、真ん中に切れ目を入れて折りたたんで半月状にする。

そしてうぐいす紙と呼ばれる緑色の包み紙の上に敷いた銀紙に載せ、くるんと包んで輪ゴムで止め、その状態で提供される。


これが名古屋式お好み焼きの作り方であり、広島風の作り方をしながらも関西風の味がするというハイブリッドお好み焼きなのだ。


又、このというのが名古屋式お好み焼きの最大の特徴である。

他の地域ならばプラスチックの容器に入れて渡されるだろうが、名古屋のお好み焼き屋でその方式をしている店は少なく、どの店もうぐいす紙で包んでいる。

これは、名古屋ではお好み焼きは店内で座って食べるのではなく、持ち帰ってから家で食べるか、ハンバーガーのように歩きながら食べる物だからである。

手に持ってうぐいす紙を破り、銀紙を剥し、半月状の先端部分に齧り付く。

これが名古屋式お好み焼きの食べ方であり、作り方以上に他のお好み焼きとは一戦を画す特徴だ。

大阪には『食べ歩き』という文化があるが、名古屋は『歩き食べ』の文化がある。手に持って歩きながら物を食べるのが名古屋的なのだ。

そのまま齧り付くのは恥ずかしいという人は頼めば割り箸をもらえるので大丈夫だ。歩きながら割り箸でお好み焼きを食べれば良い。


東京で産まれて死に、大阪で復活して、関西風と広島風に別れたお好み焼き。

それが名古屋で両方の特徴を併せ持ち、更には新しい概念までも手に入れた。

これはもう、名古屋式お好み焼きがお好み焼きの進化の終着点と言い切っても良いだろう。

お好み焼きは関西風や広島風という括りを解き放ち、この名古屋式お好み焼きをスタンダードとして世に広めるべきだ。


さあ、みんなでお好み焼きを食べながら歩こう。値段も300円未満で安くてお得だぞ。

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