名古屋めし語り

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味噌煮込みうどん

味噌煮込みうどんが美味しい季節がやって来た

名古屋の街に、雪が降る。


年が変わり寒さも厳しくなってきた頃、名古屋の街は軽く積もる程度に雪が降る。

初雪は年末に降る事が多いのだが、12月の雪は殆どが粉雪で積もる事はない。積もるほどの雪となると1月の中頃から2月にかけてになる。

この時期が名古屋の雪のシーズンと言えるだろう。


こうして仕事の帰宅中にこんこんと牡丹雪が歩道に積もっていくのを見ると、また今年も味噌煮込みうどんが美味しい季節がやって来たのだなと感慨深くなる。




味噌煮込みうどん。

それは一般的な煮込みうどんに追随を許さない、完成された煮込みうどんの事である。


まずはスープ。

『味噌煮込みうどん』という名が記す通り味付けは味噌であり、愛知県発祥の八丁味噌という赤味噌を使用する。

一般的な味噌は熱を加えすぎると風味が飛んでしまうのだが、八丁味噌は長時間煮込んでも風味が飛び難いのが特徴だ。このお陰で愛知県内は八丁味噌を使った煮込み料理が多い。

又、一般的な味噌の熟成期間は半年から一年程だが、八丁味噌は約二年もの期間を熟成に使うため、他の味噌に比べて強い旨味と奥深い味が出るのも特徴である。

この二つの特徴がある八丁味噌だからこそ、名古屋人の魂の故郷とも言える味噌煮込みうどんが作れる。

最早八丁味噌は味噌煮込み専用味噌とも言えるだろう。

これを味噌の力強さに負けない様に濃く取った鰹出汁で溶いてスープの基本とする。濃さは赤出汁の味噌汁よりも若干濃い程度がいい。



次に麺。

実は味噌煮込みうどんには味噌煮込みうどん専用の麺が存在する。

製麺する時に小麦粉に塩を加えずに作った特製麺であり、普通のうどんの麺に比べてやや光沢が無いのっぺりとした色をしている。

この特製麺を茹でてからスープに入れるのではなく、のが味噌煮込みうどんの最大の特徴だ。

八丁味噌のスープは塩分濃度が濃いので、普通のうどんの麺では製麺時に混ぜる塩分と合わさって出来上がりの時に塩辛くなってしまう。

その塩辛さを防ぐために、この特製麺は逆に塩を使わないのだ。

又、味噌煮込みうどんの麺は中心部分に芯が残った状態で出て来るのが基本である。

初めての人は失敗作だと思ってしまうだろうが、これは味噌煮込みうどんが沸騰したまま出てくるので、食べているうちに丁度良い柔らかさになるからである。

最初は麺を食らうだろうが、慣れてくるとこの微妙な硬さが癖になるので大丈夫だ。



そして具。

一般的な味噌煮込みうどんの具は、月見にした卵、斜めに切った葱、*印に切り込みを入れた椎茸、弧の部分だけピンク色の蒲鉾、そして『かしわ』と呼ばれる鶏肉を使う。

この五種類が味噌煮込みうどんの具のスタンダードであるが、老舗や上品な店だと真ん中やや手前に花麩が入る。所謂侘び寂びだ。

店によっては油揚げや人参を足すところもあるが、やはりこの基本の五種類が食感や味の変化的にも一番バランスが良い。

最近では少なくなったが海老天を乗せるところもある。

天ぷらの衣が味噌を吸ってぐずぐずになるが、その衣が味噌を吸ったの状態の海老天を食べるのがこれまた美味い。

他にも牡蠣や牛のモツや餅を入れる店もあが、まずはやはり基本の五種類だろう。

基準となる味を定めてから、派生を食べてみるのだ。



最後は器。

味噌煮込みうどんは最初から最後まで一人用の土鍋を使って調理する。

この土鍋を火にかけ、八丁味噌を鰹出汁で溶き、麺と具を入れて煮込み、具に火が通ったら卵を落とし、上に蓋を被せて提供するのだ。

そして食べる時は土鍋の蓋を取り皿として活用するのが、昔ながらの名古屋人の食べ方である。

行儀が悪い食べ方のように思えるだろうが、年配者ほどこの食べ方をするので気にしなくてもいい。

だが、店によっては土鍋の蓋に煮込む時用の空気穴が開いており、慣れていないとこの穴からスープを零してしまうので要注意だ。

この穴が開いている蓋でも味噌煮込みうどんのスープを零さずに食べれるようになった時こそ、ミソミコミニストの入口に立ったと言えるだろう。

名古屋圏内では味噌煮込みうどんのために人数分の土鍋を持っている家庭が多く、幼少時からこの器と蓋で味噌煮込みうどんを食べる訓練をさせられる。

彼等は小学校を卒業する頃には穴開きの蓋でも味噌煮込みうどんのスープを零さず食べれるようになっており、天然のミソニコミニストとしての産声を上げる。

更に、この一人前用の土鍋は皹が入った程度では買い換える物ではなく、土鍋に網目状に針金を縛り付ける事で補強し、継続して使用する。

この針金で補強された土鍋を持っているという事こそが一人前のミソニコミニストとして認められる証であり、財産である。

これは決して名古屋人がケチ臭いからという訳ではなく、ミソニコミニストとしての文化なのだ。



必須なのが白いご飯。

これはうどん好きな県の人からしたら怒られるかもしれないのだが、味噌煮込みうどんは白いご飯によく合う。

というか、味噌の味が濃いので白いご飯と一緒に食べて丁度良いぐらいだ。

卵も葱も椎茸も蒲鉾もかしわも味噌煮込みうどんの口休めのために入っている節があり、それだけ味の濃い食べ物だという事がよく分かる。

店によっては味噌煮込みうどんと一緒に漬け物を出す場合もあり、ご飯のお供のはずの漬物が逆に口休めになってしまうほどだ。

又、蓋に味噌煮込みうどんのスープを取り、スープに卵の黄身を溶かし、そこに麺や具を潜らせて食べるという、味噌味のすき焼きのような食べ方もある。

この食べ方は味噌煮込みうどんの味がマイルドになるだけでなく、ご飯との相性が更に良くなる。箸が止まらなくなってしまうな。

味噌煮込みうどんは単体で食べるのではなく、白いご飯と一緒に食べるべきである。

味噌煮込みうどんを出している店ならばほぼ100%白いご飯を置いているし、味噌煮込みうどん定食という物も置いている。

うどんにご飯という組み合わせは意外でもなんでもない。必然なのだ。恐れずに一緒に白いご飯を頼んで欲しい。



以上。

これが味噌煮込みうどんという食べ物であり、名古屋圏のミソニコミニストが崇める料理である。

是非とも名古屋圏に来た時は味噌煮込みうどんを食べてみるといいだろう。他では味わえないこの地域だけの特別なうどんだ。

栄養のある赤味噌をふんだんに使っているから美味しいだけでなく体にも良い。何よりも熱々なので体が温まる。

特にこんな寒い日には味噌煮込みうどんを食べて温まりたいものだ。


また今年も、味噌煮込みうどんが美味しい季節がやって来た。

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