台湾ラーメン

辛い、旨い、止まらないが台湾ラーメンだ。

今や日式拉麺と呼ばれて拉麺の本場である中国にも逆輸入されているラーメン。

基本は醤油、味噌、塩の三種類だが、スープや調味油やトッピングの種類によって星の数ほども派生が存在すると言われている。

有名なラーメンは地域に根付いたご当地ラーメンとして地名で呼ばれており、

よく聞く物として、札幌ラーメン、喜多方ラーメン、博多ラーメン、の三つがあるだろう。この三つは日本三大ラーメンとして数えられている。

他にも全国にその土地の名前を冠したご当地ラーメンは複数あるが、海外で『名古屋ラーメン』と呼ばれて親しまれているラーメンが存在するのを知っているだろうか?


名古屋でその名を知らない人は居ないとされる、激辛で有名な台湾ラーメンの事だ。

この台湾ラーメンが台湾で名古屋ラーメンと呼ばれている。


台湾ラーメンの始まりは名古屋のとある中華・台湾料理屋。


ある日、この店の台湾人店主が友人と台湾に帰省旅行に行き、そこで担仔麺たんつーめんと呼ばれる、スープに豚のそぼろ肉、海老、大蒜ソースのかかった麺料理を食べ、その美味しさに友人が感動した。

そして日本に帰ってきてから友人に『担仔麺たんつーめんを食べたいので作ってくれ』と頼み込まれ、手探りで作ってみるも上手くいかず、失敗に終わったらしい。

そこで諦め切れなかった店主は試しに唐辛子と大蒜で豚ミンチをピリ辛に炒めてみた所、店の従業員に好評で、賄いとして人気になった。

このピリ辛担仔麺たんつーめんが店主の別の友人から『これはメニューに加えるべきだ』と言われ、名古屋人の舌に合わせるための一年の改良を経て、店頭に並ぶようになったのだ。

台湾ラーメンという名前は作る事になったきっかけが台湾に旅行した経験だかららしい。他にも自分の故郷の事を広めたかったという理由もあるだろう。

ちなみに、このエピソードは名古屋人の間では有名なのだが、最初の担仔麺たんつーめんが好きな友人がどうなったかについては語られていない。


その後、台湾ラーメンは昭和後期に起きた激辛ブームの煽りを受けて一躍有名になり、現在では名古屋の中華料理屋ならどこでも台湾ラーメンを出している程普及した。

中には大学の学生食堂や大企業の社員食堂のメニューにも並んでいるらしく、その人気ぶりが伺える。


ピリ辛担仔麺たんつーめんから生まれ変わった台湾ラーメンは、大蒜、唐辛子、豚ミンチの他に、ニラ、もやし、葱を使用していて、それらを様々な調味料で炒めてあっさりとした醤油スープにかける。

豚ミンチの脂と調味料によってスープの表面に赤い油膜が出来、それを大量の豚ミンチと少々の野菜が多い尽くす。

麺は中太麺。スープに絡まないタイプだが、台湾ラーメンのスープは辛いのでこれぐらいが丁度良い。

台湾ラーメンは炒めた豚ミンチと香味野菜から溢れ出る香ばしさや旨味がとても食欲をそそり、気が付いたら汗を流しながら最後まで食べてしまう。

唐辛子も多目に入っているので辛いのだが、そんな事は気にならないぐらいに美味しい。

麺を啜っている間は具が麺に絡んで一緒に口に入って来るのだが、麺を食べ尽くすと具を食べるのにレンゲで掬わなくてはならないのがくせ者だ。

ニラや唐辛子はスープに浮くが、豚ミンチは沈む。

そのため、レンゲを深く入れないと豚ミンチが掬えない。

そして深くまで掬うとスープも一緒に掬ってしまう。

それを口に入れると、豚ミンチだけでなく辛いスープも口に入る。

台湾ラーメンは豚ミンチが主役だと思うぐらい美味しいのだが、その旨味が溶け出しているスープも勿論美味しい。

だが、辛い。

唐辛子も一緒に掬ったりするから余計に辛い。

その辛さで頬が熱くなり、目からは涙が出て、額からは汗が噴出す。だが、豚ミンチを掬う手は止まらない。

こんなに美味しい物を残してなるものかと、最後の一粒まで掬おうと躍起になる。

そして気が付くと丼の底が見えるまでスープは少なくなっており、顔や背中は汗だらけだ。

舌には台湾ラーメンを味わいつくしたという満足感が残り。体にも稀代の一戦を終えたという満足感が残る。

勿論辛さも残るので後が大変だが、そんな事を気にしていたら台湾ラーメンは食べれない。

辛い、旨い、止まらないが台湾ラーメンだ。


だが、やはり辛いのは苦手だけど台湾ラーメンを食べたいという意見が多かったのだろう。

辛さを控えめにした台湾ラーメンアメリカンという物が存在する。

恐らくはアメリカンコーヒーが由来で、辛さを薄くした物を台湾ラーメンアメリカンと呼んでいると思われる。

逆に辛さ増した物は台湾ラーメンイタリアンと呼ぶ。

こちらの由来は不明だ。一部ではエスプレッソの事ではないかと言われている。

この二つは元々常連が呼んでいた頼み方らしいが、この呼び方をせずとも注文の際に『辛さ控えめで』や『辛さ増しで』と頼めばその通りにして貰える。

賄いだった物が名物メニューに昇格したり、常連の注文の仕方が公式になったりと、中々にフットワークが軽い店だ。


又、今ではメニューに載っているが、元々は裏メニューの台湾丼という物も存在する。

これも賄いで食べられていた物で、台湾ラーメンに乗せる豚ミンチと大蒜と唐辛子を炒めた物をご飯に乗せ、真ん中に卵を落とした物だ。

台湾ラーメンに比べると豚ミンチの量が多く、それに合わせて唐辛子も多い。しかし、卵を潰して混ぜる事で辛さが中和されて全体がまろやかになる。

こちらは辛いのが苦手な人でも食べる事が出来るが、はっきりと言ってジャンクフードなので合わない人も居るだろう。私は大好きだ。毎日でも食べられる。

最初は壁に『台湾丼あります』と手書きの紙が貼ってあっただけでメニューには書かれておらず、少ししたら貼り紙が消えていたので一部の人しか知らない存在だった。

メニューに書いてなくても注文できたので私は困らなかったが、気になっていた人が多かったのだろう。

『あの食べ物はなんですか?』という問い合わせが多かったらしく、レギュラーメニューに昇格する事になった。


他にも台湾まぜそばという最近のまぜそばブームに乗っかった物もあるが、これはこの台湾ラーメン発祥の店とは関係無く、名古屋めしとして台湾ラーメンが普及してから出来た新しい存在だ。

味について賛否両論あるが、これもジャンクフードが好きな人なら好みの味だろう。台湾丼よりかは一般受けする味だ。


今では全国的に有名になった台湾ラーメンだが、それでもまだ『どうして名古屋なのに台湾ラーメン?』という問い合わせは多い。

毎年、『本場の台湾ラーメンを食べに行こう!』と言って台湾まで行ってしまう人が何人か居るらしく、台湾で『台湾ラーメン下さい!』という日本人観光客が話題になっているらしい。

それが経緯で台湾で名古屋の台湾ラーメンの存在が知れ渡り、向こうでは『名古屋の料理人が台湾の麺料理を参考に作った物なので名古屋ラーメンと呼ぼう』という動きがあって、海外では名古屋ラーメンと呼ばれるようになった。

元々が台湾の調理を参考にしているので台湾人の口にも合うようで、台湾でも人気がある。


台湾ラーメンはとても辛く、そして旨い。

辛い物が苦手な人には辛いだろうが、逆に辛い物が好きな人には大変お勧めな名古屋めしだ。

辛いのが辛い人も台湾丼や台湾まぜそばなら食べられるだろう。一度は台湾部分の豚ミンチを食べて欲しい。

あの辛さと旨さは病み付きになる。

もしも名古屋に来る事があのならば、是非チャレンジしてみるといいだろう。

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